研究実績の概要 |
演劇・舞踊・オペラを対象にしつつ、グローバル化の現実を踏まえた新しい文化論を模索する本研究「越境文化演劇研究」は最終年(3年目)に当たり、これまでの研究の総括と成果発表の準備を行った。 2019年6月にライプツィヒ大学で行われたブレヒト国際学会の研究発表会に研究代表者と2名の共同研究者が発表を行った。計3名の発表者は、ブレヒトの劇作品や作品受容を出発点にして、異文化ではなく、自文化における異質なものを考察することの意義を提案した。各発表では、ブレヒト作品とヨーロッパの現代オペラ作品が、私たちが日常生活で「普通である」と思う文化的自明性に異質なものが潜んでいることを気づかせる点で有効であることを例証した。 同年7月にはライプツィヒ大学演劇研究センター主事で演劇研究者のMicha Braun氏を慶應義塾大学に招き、17世期から19世期に到るヨーロッパの近代化における演劇と文化の関連性についての講演を行って頂いた。講演において同氏は、啓蒙や近代化の表舞台の脇で起きた文化的事象は、啓蒙の影(随伴現象としての弊害)の特徴を含んでいること、また、それは演劇的な文化事象でもあることを指摘した。 2020年2月に本研究の主催によるシンポジウム「越境文化演劇における感情の諸相」を慶應義塾大学にて開催した。同シンポジウムでは、音楽や演劇の感性面と知的省察の二つの側面が自文化への違和感を喚起し、その違和感からより開かれた文化的意識を導く可能性について議論した。発表者は、共同研究者の北川千香子、アフリカとヨーロッパ現代演劇の専門家でルクセンブルク大学ポスドク研究員のKoku G. Nonoa氏、ドイツの移民文化を研究する栗田くり菜氏、越境文化文学を専門とする谷本知紗氏である。 本研究の成果を論文集として発表するため、研究会を2019年5,9,12月に行い、論文執筆予定者の論文テーマを議論した。
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