研究課題/領域番号 |
17H02308
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研究機関 | 嵯峨美術大学 |
研究代表者 |
仲 政明 嵯峨美術大学, 芸術学部, 教授 (50411327)
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研究分担者 |
佐々木 良子 嵯峨美術大学, 芸術学部, 講師 (00423062)
田中 重光 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 研究員 (20509822)
山内 朝夫 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 研究主任 (80416304)
山内 章 桃山学院大学, 国際教養学部, 客員教授 (90174573)
箱崎 睦昌 嵯峨美術大学, 芸術学部, 名誉教授 (90351379)
木曽 太郎 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 研究主任 (90416313)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 蘭画 / 顔料分析 / 模写 / プルシアンブルー / 小野田直武 / 司馬江漢 |
研究実績の概要 |
前年度に鳥取県長谷寺所蔵の安政期を含む絵馬の蛍光X線分析行いスマルト、プルシアンブルー、ウルトラマリンブルーなどの舶来顔料が使用されていることが判明した。また安永期と考えられる秋田県立近代美術館所蔵秋田蘭画小野田直武筆「芍薬花籠図」(県指定文化財)の分析も行い、この時点では明確に判断できなかったが、プルシアンブルーを用いている可能性が考えられる分析結果が出た。これらの調査結果をもとに今年度は2019年8月に府中市美術館所蔵の司馬江漢筆「生花図」の蛍光X線分析と可視分光分析による非破壊顔料分析調査を行った。司馬江漢は前述の小野田直武と同時代を生きた絵師であり、二人には交流があったといわれている。「生花図」は「芍薬花籠図」と同時期に描かれた作品と考えられ、鮮やかな青色が使用されている。ここでプルシアンブルーが検出されることを期待したが、結果はCu(銅)が検出されたことから群青が使用されていることが判明した。あらためて「芍薬花籠図」のデーターを解析する必要があるが、プルシアンブルーの使用が明確になれば、同時代に生き交流のあった二人が、違う顔料を用いているとすれば、興味深い結果である。 また、今年度は制作過程における実証的研究を目的として「芍薬花籠図」「生花図」の復元模写制作を行い、両者の制作過程で判明した技法の共通点と相違点を明らかにした。特に「芍薬花籠図」においては、プルシアンブルーと思われる青色顔料の発色に疑問を持ち、試行錯誤を繰り返しながら、展色材の違いによる発色試験を行ったことで、小野田直武がアラビアガムと魚膠を併用している可能性を見出せたことは、この時代における絵師の表現に対する考え方を考察する上で重要な知見を得たといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
開始当初の2017年度は分析機器のバグの発生及び致命的な問題により、計画の修正を余儀なくされ計画は大幅に遅れた。しかしながら2018年度は秋田県立近代美術館蔵小野田直武筆「芍薬花籠図」(県指定文化財)をはじめ、島根県長谷寺所蔵絵馬群、長野県北斎館所蔵北斎筆上町祭屋台天井画「男浪図」「女浪図」2点及び「菊図」2幅、沖縄美ら島財団所蔵孫億筆「花鳥図」3幅及び高知県土佐山内家「能面」計5箇所の分析調査を行った。また2019年度は府中市美術館小野田直武筆「生花図」をはじめ、沖縄美ら島財団所蔵武永寧筆「神猫図」、大阪府加賀田神社絵馬3箇所の調査を行った。尚、関連調査として岐阜県犬山市国宝茶室「如庵」の襖、京都市本隆寺本堂彩色、奈良県比売久波神社本殿彩色、奈良県都祁水分神社本殿彩色、計4箇所の建造物関連彩色調査を行った。また「研究実績の概要」でも記載したとおり、制作過程における実証的研究を目的として「芍薬花籠図」「生花図」の復元模写の制作を行い、江戸時代後期の蘭画における技法と顔料を明らかにした。しかし、比較検討資料として予定をしていた大覚寺障壁画群及び岐阜県明治村に保管されている明治期初期彩色顔料資料などは、3月からの新型コロナウィルスの影響もあり調査を行えなかった。 以上のように初年度は大幅に後れを取ったが、多くの方の協力もあり、安政期を含め江戸時代後期から幕末にかけての顔料分析データーは当初の予想以上の収集できていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は最終年度となり、今まで調査において収集したデーターを解析しながら整理し、データーベース化を図る。特に江戸後期に用いられるようになるコバルトブルー、プルシャンブルーおよびスマルト等の舶来顔料についてはデーターを精査した上で、変遷を明らかにできればと考えている。データーベース化は市販ソフトを使用して行い、何らかの形で公開を目指す。また蘭画「芍薬花籠図」「生花図」の復元模写制作を通して得た実証的研究成果もまとめ、技法や材料の解明にとどまらず、両者の表現および時代性についての考察を含めた報告書作成を行う。さらに今年度は、沖縄美ら島財団所蔵紙本著色毛長禧筆「闘鶏図」3幅、本学所蔵幕末期の南蘋派系絵画、狩野派系絵画の分析調査を予定にしている。また関連調査として京都市嵯峨二尊院所蔵土佐行広筆「二十五菩薩来迎図」、岐阜県明治村内に用いられている顔料調査及び大覚寺障壁画などを検討している。しかし新型コロナウィルスの発生により、2020年度4月から6月までの3ヶ月はまったく調査が進んでおらず、今後もコロナウィルスの動向によっては調査が行えるかどうかは未知数である。データーの解析結果の内容によっては、研究の延長も視野に入れて研究を進めたい。
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