研究課題
本年度においては、資料調査、翻刻本文の作成と校合、これまでの研究を踏まえた成果発表等を行った。また謡本研究について、早稲田大学特定課題研究の支援をも受けることが出来たため、書籍類の購入はそちらで専ら行い、本研究費は資料調査や翻刻謝金に大きく充てることが可能となった。資料調査としては、新潟市吉田文庫で吉田東伍の芸能史研究資料他の調査を行ったこと、岩国市徴古館において吉川家旧蔵の番外謡本を中心とする謡本のデジタルカメラによる収集作業を行ったことが挙げられる。成果発表に時を費やしたために、予定していた調査がすべて行えたわけではない。翻刻本文としては、ナ行・ハ行・マ行・ヤ行を中心に33曲の翻刻を行った。また伝統的な人気曲の本文異同や伝流の問題についても考察を深めた。すなわち同一筆者・同一節付者の同一曲謡本において、本文・節付に小異が極めて多く存在する事実を発見した。これについて、平成30年度能楽学会大会における招待講演において、発表を行った。この成果は現在論文執筆準備中であるが、室町期謡本研究に一石を投じるものと確信する。またかつて別課題の科学研究費で購入し、今は早稲田大学に寄贈した古活字玉屋本について、大学の購入分と合わせ、その版面及び表紙裏張り綴じ込み文書の調査を通じて、従来不明とされていた古活字玉屋本の刊者が、「(塩川)太兵衛」(姓は存疑)であろうこと、揃本である天理図書館蔵本と比較して、刷りの前後が混淆し、また一部に異植活字の混じる場合があること、恐らくはただ一度のみ印刷刊行されたが、印刷中のミスなどで異植の生じた可能性のあること、古活字玉屋本は従来の想定と異なり、光悦謡本系諸版本に基づく時代遅れの観世流海賊版であり、その刊行は元和卯月本と寛永卯月本の中間に当たるらしいことを明らかにした。右は、謡本の江戸期における伝流について大きな示唆を与える発見である。
2: おおむね順調に進展している
番外謡曲の翻刻もほぼ順調に進行しており、また成果発表も予定通り行い得ている。『現代能楽集成』の原稿がいまだに完成していないが、これについても今年度中に第一冊分は完成の予定である。世阿弥自筆本の校合も今年度中に全曲について終えることが出来ればと考えている。
番外謡本翻刻作業を最終段階まで進めること、世阿弥時代の能本と室町後期以後の謡本との関連性について総括的な論をまとめることを目指す。本年度中の目標は、番外曲翻刻作業、能本と謡本との比較校合作業の続行にある。これらの作業を踏まえて、来年度には研究成果を総括し、世阿弥自筆本と現存謡本との系統関係についての、新たな見通しを示し、現存謡曲作品の伝来の問題に対し、明確な系統付けを行う予定である。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (6件) (うちオープンアクセス 5件、 査読あり 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 5件)
演劇研究
巻: 42 ページ: PP17-44
早稲田大学図書館紀要
巻: 66 ページ: PP1-51
日本の舞台芸術における身体(ボナヴェントゥーラ・ルペルティ監修/晃洋書房)
巻: 単行本 ページ: PP85-101
能楽研究所デジタルアーカイブhttps://nohken.ws.hosei.ac.jp/nohken_material/htmls/dateke-htmls-201903/index.html
巻: 伊達家旧蔵能楽資料デジタルアーカイブ ページ: PP1-1
銕仙
巻: 683 ページ: PP3-4
国文学研究
巻: 186 ページ: PP56-70