研究課題/領域番号 |
17H02316
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
今泉 容子 筑波大学, 人文社会系, 教授 (40151667)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ブレイク / 複合芸術 / ロマン主義 / 彩飾詩 / 人体 / 足 / 交わり / 堕落 |
研究実績の概要 |
本研究が対象とするのは、イギリス・ロマン主義期の詩人・画家・彫版画師ウィリアム・ブレイク(William Blake)の「彩飾詩」(Illuminated Poetry)とよばれる複合芸術の全作品である。研究目的は、彼の作品に頻出し、彼が人間関係のゴールとした「交じり合い」(comingling)の拠点となる「足」の意味を、18世紀の医学的ディスコースに関連づけながら、また同時代のゴシック文学/エロティック文学における「足」の描写と比較しながら、解明することである。 初年度の平成29年度には、ブレイク彩飾詩作品そのものにおいて頻出する「女の足」の意味を解明することに努めた。「男の足」の研究は、デイヴィッド・アードマンやS・フォスター・デイモンたちの先行研究が解明したとおり、理想的な人間関係を達成するために不可欠な人体部位である。しかし、「女の足」の考察はこれまでのブレイク研究からすっぽりと抜け落ちていたことに着眼して、ブレイクが詩文と絵画において「女の足」に付与した意味を明らかにしようとしたのである。 一年間の研究の結果、ブレイクの「女の足」は、「男の足」とは正反対の意味と役割を付与されていることが突き止められた。ブレイクにとって「足」という人体部位は、人と人が交わる理想的関係への第一歩を踏み出す重要なものである、という理解が一般的に定着しているが、じつはそれは「男の足」にだけ通用することであり、「女の足」は逆の働きをすることが明らかになった。 具体的にいえば、「女の足」が男に向かって開かれると、そこにはセックス器官が露出し、男を魅惑して堕落させる道具となる。さらに、「女の足」は相手(男であれ女であれ)を踏みつけ、支配下に置くための道具ともなる。そうした「女の足」の全貌が明らかにできたのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は計画どおりに実行されているため、順調に進展していると言えよう。
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今後の研究の推進方策 |
今後は予定どおり、初年度に実施したブレイク彩飾詩の「女の足」の分析データを分類し保存する作業からスタートしたい。データを分類保存したあと、それらのデータを駆使しながら、「足」にたいするブレイクの特異な考え方を、彼が活躍した18世紀の医学書における「足」の記述、およびゴシック文学/エロティック文学や絵画における「足」の描写に照らし合わせながら、明らかにしていきたい。 昨年度までに完成した分析作業と今後の研究が異なる点は、ブレイク彩飾詩のオリジナルや18世紀の医学文献や絵画(オリジナル)を調査するため、イギリス・ロンドンのテイト美術館と大英博物館およびケンブリッジ大学のフィッツウィリアム美術館を目的地とした現地調査が実施すべき項目として含まれることである。 たとえば、ブレイクと同時代の画家で、ロイヤルアカデミー初代会長ジョシュア・レノルズは、女性肖像の定番スタイル「胸は出しても、足は重厚なスカートで隠す」を実践して肖像画を描いていたが、そうした当時主流の「(隠された)女の足」とブレイクの完全に露出した「女の足」の比較を行いたいのである。 とうぜん絵画だけでなく、医学書とゴシック文学/エロティック文学のおける「女の足」の表象を検出し、分析したすべてを活用しながらブレイクの「女の足」の特性を明らかにしたい。つまり18世紀というコンテクストにブレイクの「女の足」を据えることによって、足という人体部位にたいする彼の独創的な想像力を解明する方向へ進んでいきたいのである。
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