研究課題/領域番号 |
17H02327
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
千田 大介 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 教授 (70298107)
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研究分担者 |
山下 一夫 慶應義塾大学, 理工学部(日吉), 教授 (20383383)
上地 宏一 大東文化大学, 社会学部, 准教授 (20468721)
川 浩二 立教大学, 外国語教育研究センター, 教育講師 (30386578)
二階堂 善弘 関西大学, 文学部, 教授 (70292258)
材木谷 敦 中央大学, 文学部, 教授 (70307172)
師 茂樹 花園大学, 文学部, 教授 (70351294)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 中国古典戯曲 / 本色 / 通俗戯曲 / 弋陽腔 / 高腔 / 京腔 / 皮影戯 |
研究実績の概要 |
2020年度は、次年度における最終成果の取りまとめを視野に、上半期において研究ロードマップの見直しを行った。当初は中国・台湾の機関・図書館における資料調査を計画していたが、新型コロナウイルスの流行をふまえ、従来の研究で集積した資料を対象とした文献研究をより進化させることとした。 批評理論班は、材木谷が中心となり、引きつづき明清代文人の論著・序跋などに見える「本色」というタームの諸相について、従来の研究成果を点検して、補完的な資料分析を進めた。 戯曲分析班は、引きつづき明代の富春堂本伝奇の翻刻作業を進め、2021年度における台湾博揚文化出版社からの刊行を視野に、『鸚鵡記』・『玉釵記』の翻刻稿を公表した。その過程を通じて、前年度に中国古典戯曲データベース上に公開した『欽定曲譜』・『南北詞簡譜』および曲譜索引データの検証を進め、特に北曲部分のスキームの修正・更新作業を進めた。焦循『劇説』・『花部農譚』についても訳注の問題点の洗い出しを行い、台湾博揚文化出版社から刊行する準備を進めた。 弋陽腔伝奇の通俗文芸史における位置づけや影響については、研究代表者・千田が清代北京の京腔および京劇・皮影戯などにおける西唐故事変遷に対する検討を進め、乾隆年間前葉における旧西唐故事の物語内容の復元を試みるとともに、小説『異説征西演義全伝』・『説唐三伝』等への影響を明らかにした。研究分担者・山下は、台湾皮影戯『割股』と広東東部の伝統演劇、弋陽腔伝奇『葵花記』などの比較対象を行い、弋陽腔伝奇の福建・広東・台湾における変遷・受容の一端を明らかにした。 情報学班、師・上地は、音韻分析システムのブラッシュアップを進めるとともに、新たに『漢字古今音表』を電子テキスト化し、音韻テーブルの拡充に向けてデータの校正作業を進めた。 以上を通じて、次年度の最終成果報告に向けた準備がほぼ完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように、本年度は前年度までの研究を更に深化させる形で研究を進め、既に最終年度における成果報告に向けた準備を概ね完了している。 明清代の批評用語としての「本色」については、テクスト分析に基づいてその用いられ方の実態解明が順調に進展している。弋陽腔系の通俗伝奇についても、清代中期北京の演劇の上演実態に即して西唐故事および『三皇宝剣』伝奇を検討し、清代における演劇文化の変容がサブカルチャー的な商業主義演劇および粉戯の隆盛をもたらし、それが家将故事の形成・発展・流行に大きな影響を与えたことを考究するとともに、それらが江南において成立した章回小説に影響を与えていたことを解明し、清代通俗文芸史におけるミッシングリンクの一端を埋めることができた。一方、福建・広東・台湾において弋陽腔系伝奇が変容して台湾皮影戯台本が成立した過程への検討を通じて、弋陽腔の広範な伝播と地域文化形成との関係を具体的に解明した。 中国古典戯曲データベースの構築については、曲譜本文と索引情報を公開して、中国古典戯曲研究における曲牌索引の欠落を補う新たな研究基盤を提供した。また、最終年度におけるデータベースへの登録を視野に、戯曲作品、関連著作のデジタル化と古典戯曲の総目録の作成を進めている。古典戯曲研究を前提とした音韻表示システムについても、新システムのプロトタイプに基づき、『漢語方音字彙』・『中原音韻』・『洪武正韻』・『漢字古今音表』などを整合した総合的漢語音韻テーブルの作成作業を進めている。これらは日本が発信する中国学デジタルインフラとして、意味を持つものと考える。 以上から、研究はおおむね順調に推移していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は研究最終年度に当たるため、最終的な成果取りまとめを視野に、補完的な研究と成果の取りまとめ、公表を進める。 上半期において、研究状況を改めて精査して、補完的な調査・研究が必要な部分を洗い出す。それをふまえて、研究の深化および各種データの構築を進める。 夏期においてそうした成果を一旦取りまとめ、秋季に公開講演会等を通じてレビューするとともに、『劇説』・弋陽腔伝奇の翻刻を刊行する。 レビューの結果をふまえて、年末に書けて研究の修正・補完を進め、研究成果を公刊するとともに、データやシステムを正式に公開する。
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