研究課題/領域番号 |
17H02334
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
由本 陽子 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 教授 (90183988)
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研究分担者 |
杉岡 洋子 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 名誉教授 (00187650)
伊藤 たかね 東京大学, 大学院情報学環, 特任教授 (10168354)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 複合語 / 第1投射の条件 / 形容詞 / 形容名詞 / 派生形容詞 / 派生動詞 / クオリア構造 / 項構造 |
研究実績の概要 |
2021年3月7日に、本研究の各メンバーの成果公表および意見交換を目的として、静岡県立大学の長野明子氏と茨城大学の西山國雄氏に招待講演もお願いし、ワークショップ「形容詞が関わる語形成をめぐって」をオンライン形式で開催した。約57名が参加し、活発な議論が行われた。杉岡は、日本語の動詞+asiの形の形容詞(e.g.うらやましい)を英語の -able形容詞の一部の用法(e.g. likable)と比較し、これらの接辞の機能(外項の抑制と直接内項の主語への取り立て)の共通性と、派生形容詞の主観性という意味特徴の由来における相違点を指摘した。伊藤は、Xが動詞の直接内項にあたるX-V-en型の動詞由来複合語(e.g. fat-reduced diet)の形成は、本来V-enの主語項となるべきXが複合語内に取り込まれるため、Xが密接な意味関係(部分・形質)をもつ新たな主語項を作り出すプロセスであり、アナロジー的な拡張によって可能になると論じた。由本は、日英語の複合形容詞・形容詞由来複合名詞には、項構造を基盤とした語彙部門での複合(基本的に第一投射の原則に従う)と、統語構造を基盤とする編入による語形成の2種があること、また、日本語の複合形容(名)詞の多くは、複合する名詞の情報(LCS,クオリア構造)を利用し非主要部からの項の受け継ぎによって述語機能が保証されていることを明らかにした。ワークショップでの議論を踏まえ、由本は第 53 回中日理論言語学研究会2021.9.19)において上記の分析をさらに精緻化した内容を発表した。杉岡は形容詞からの派生動詞についての研究成果を国際ワークショップWorkshop on change of state verbs --Empirical and theoretical perspectives(2022.2)において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、新聞、青空文庫などから、日本語の複合形容詞を収集し、どのような組み合わせの生産性が高いかを調査する、また、COCAを用いて英語の形容詞の名詞化における項の受け継ぎが複合語を形成しない場合にどのように句構造上現れているかを調査する、という計画を立てていたが、これらは検索エンジンを使って簡単にできる調査ではなく、多くの人手と時間が必要である。コロナ感染の影響により、アルバイトを雇用して共に作業することができず、コーパスデータを用いた調査には限界があることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
日本語については、コーパスを用いて複合語の組み合わせの生産性を調査することには限界があるため、その代わりとしてインフォーマントを対象にした容認度の調査を実施する計画である。由本(2021)で提示した日本語の複合形容詞・形容名詞の2種類の形成メカニズムにおける一般化に沿う組み合わせが、辞書に掲載されていないものでも容認されるかどうかを調査する。また、杉岡による形容詞由来の派生動詞についての研究を国際ワークショップで得られた知見を加えてさらに進めて論文として公表する。伊藤が進めている英語のX-V-en型の複合についての研究は、Xが副詞で現れる例との比較(gene-modified, genetically-modified)を視野に入れ、さらに検討を進める。今年度のワークショップでそれぞれが発表した内容は、日本英語学会の「特集テーマによる一括投稿論文」の公募に「語形成から見る形容詞の意味と統語」というテーマで応募する予定である。
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