研究課題/領域番号 |
17H02347
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
福井 直樹 上智大学, 言語科学研究科, 教授 (60208931)
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研究分担者 |
酒井 邦嘉 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10251216)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 言語脳科学 / 併合 / 入れ子依存 / 交差依存 |
研究実績の概要 |
理論面においては、2019年度は引き続き人間言語における入れ子依存関係と交差依存関係の本質について研究を集中的に行なった。特に、人間言語における交差依存の例として挙げられてきた様々な現象の本質について考察した。その結果、(いくつかの未解決の部分はあるが)人間言語の中核的部分の構造は基本的に併合演算によって生成・規定される特性に限ることが出来るという見通しがついた。 さらに、言語における左右関係についても考察を継続した。言語表現における要素の左右関係を精査してみると、そこには少なくとも3種類の関係が混在していることが判った。1つは隣接性に基づく「局所的左右関係」(right- vs. left-adjacency)であり、2つ目は構造を伴う非局所的な左右関係、そして3つ目は連鎖上の非局所的左右関係(あるいは、特定の整数に言及する関係)である。これら3種類の左右関係がどのように言語の中核的演算と係わるかを理論的にまた実験的に(脳科学的に)精査することが今後の課題として残っている。 実験面においては、これまでの経験を踏まえて、自然な文(Merge-generable)と人工的な語列(Non-Merge-generable)を対比したfMRI実験の解析を綿密に行ない、その成果を論文として国際誌に発表した。自然な文に対しては、これまで報告してきた文法中枢を中心とする神経ネットワークが関わっているが、人工的な語列には、右半球を含め言語野以外の寄与が大きかった。つまり、語列という言語刺激であっても、知識などに基づく人工的な判断によってその構造が認知される場合は、全く異なる神経ネットワークが用いられるということが、初めて明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論的研究は、人間言語における入れ子依存関係と交差依存関係の背後にある抽象的構造およびそれらを生成する演算の本質を巡って着実に進展している。言語における「左右関係」の精査を通して、抽象的構造と「外在化」過程との関係の考察も視野に入ってきている。実験面においては、理論的仮説を検証するために、併合演算が背後にある依存関係とそうでない依存関係の脳内処理を識別する実験を行ない、その結果を論文にして国際誌に出版した。理論と実験がうまく相互作用して、全体として順調に計画が進行しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
現在まで本研究課題はおおむね順調に進行しているので、基本的に今後も現在の研究体制を維持し、目標を達成できるように努力を続けたい。基本演算である併合の本質とその詳細な特性の研究、中核的言語演算と他の認知能力との関わりに関して大きな意味を持つと思われる「左右関係」概念の精緻化と線状化過程との関係等も考察の対象に含めていきたい。 実験面に関しては、本年度に出版した論文の成果を元に、新たな実験パラダイムを立案し、fMRI実験を行なう。昨年までは、自然な文(Merge-generable)と人工的な語列(Non-Merge-generable)を対比したが、今後は、併合によって全的に生成可能な文(totally Merge-generable)と併合によって部分的に(のみ)生成・規定可能な文(partially Merge-generable)を対比したい。それらの統辞構造に基づいて主語と述語の呼応関係を判断している際の脳活動がどの程度異なるか、定量的に比較を行なう計画である。この解析により、両者の神経ネットワークの違いが初めて明らかになると期待される。2020年度は、上記のように新たなfMRI実験の実施と解析に注力したい。また、4語文と6語文の比較などで予想と反する結果が出た場合は、その原因を分析する必要がある。
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