研究課題/領域番号 |
17H02365
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
平川 眞規子 中央大学, 文学部, 教授 (60275807)
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研究分担者 |
武田 和恵 文教大学, 文学部, 教授 (10331456)
Snape Neal 群馬県立女子大学, 国際コミュニケーション学部, 教授 (10463720)
福田 倫子 文教大学, 文学部, 教授 (20403602)
Matthews John 中央大学, 文学部, 教授 (80436906)
梅田 真理 群馬県立女子大学, 国際コミュニケーション学部, 准教授 (80620434)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 文処理 / 再帰代名詞 / 中国語 / 英語 / 第二言語 / 継承語 / 視線解析実験 / 自己ペース読文実験 |
研究実績の概要 |
本研究では、主に、日本語の再帰代名詞(自分、自分自身)が取りうる先行詞の意味解釈について、母語話者、継承語話者、第二言語学習者を対象にした研究を継続してきた。2019年度も、視線解析実験(Visual World Paradigm 視覚世界パラダイム)の改良を重ね、新たな実験を立案した。内容は、かき混ぜ構文、遊離数量詞、「~に」格他動詞構文、受動文を含む構文を刺激文とし、主語指向性と非局所性に焦点を当てたもので、日本語母語話者とハワイ在住の継承語日本語話者を対象に実施した。その結果、日本語母語話者でも「自分」の処理には時間がかかり、文末の動詞を聞く前には先行詞の解釈が完了しないことを示唆する結果が得られた。また、「自分」の先行詞の生物制限と非局所性の効果を調べる自己ペース読み実験とオフラインタスクの結果、中国を母語とする日本語学習者は、日本語母語話者同様に生物制限に従うが、日本語母語話者とは異なり、局所的先行詞を好む傾向があることが示唆された。さらに、英語の過去形と完了形の理解に関する自己ペース読み実験の結果から、タイ語母語話者より日本語母語話者の方が、その習得が困難であることが示された。これは、日本語の過去を表す形態素「た」を、英語の過去形(~ed)と完了形(have+過去分詞形)に2分する必要があり、その素性再構築に時間を要すると考えられる。以上の研究成果は、GALA 2019 (ミラノ-ビコッカ大学)にて報告した。その他、英語圏での短期留学が及ぼす言語知識の変化に関する本実験の実施、学会参加による最新の研究動向の把握と国内外の研究者との交流、国外からの研究者(イギリス・エジンバラ大学より Antonella Sorace 氏、アメリカ・コネチカット大学より William Snyder氏)の招聘や研究打合せを行ない、本研究へのフィードバックを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究全体の進捗状況は、おおむね順調である。研究3年目にあたる2019年度は、視線解析実験と自己ペース読文実験を継続し、日本語母語話者と中国語話者による日本語の再帰代名詞について言語処理の類似点や相違点を探った。また、新たに韓国語の再帰代名詞にも焦点をあて、理論研究と実証研究の立案を行なっているが、韓国語母語話者と韓国語を母語とする日本語学習者を対象に、2020年度中に調査を行い、結果を分析して、成果をまとめる予定である。 英語圏に短期留学する日本人大学生(実験群)と日本で英語を学習する大学生(統制群)を対象にした調査の結果分析は、特に発話データが膨大であるため、その分析がやや遅れている。さらに、新型コロナウイルス禍の影響で、2020年度に予定されていた短期留学の実施が延期となっており、短期留学の前後での能力の進捗を測る調査(3年目の実験)は予定通りに実施することが困難な状況にあるため、今まで得られた研究成果をもとに、総合的な分析を行う必要が生じている。
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今後の研究の推進方策 |
理論的研究としては、日本語・英語・中国語・韓国語・タガログ語の再帰代名詞と関係節に焦点をあてた言語分析、および中国語、タイ語、スペイン語のテンスとアスペクトの通言語的研究を継続する。実証的研究については、再帰代名詞の先行詞の解釈に関する視線解析実験の改良版を、中国語や韓国語を母語とする日本語学習者について調査を実施する予定である。また、自己ペース読文実験では、特に中国語と日本語の再帰代名詞の相違点に着目した実験立案を行う。 具体的推進方策としては、視線解析実験、オフラインタスク、発話データ等、研究期間を通して得られた日本語、英語、韓国語のデータを総合し、解析と考察を行うこととする。また、日本人大学生が英語圏へ短期留学を経験した場合の音韻識別能力や発話能力の変化を調べる調査については、2年間にデータ収集したデータに基づき、分析と考察を行い、研究成果をまとめる予定である。日本における英語の習得は、英語に触れる環境が限定的である点で、継承語を保持する環境に類似している。本研究から得られる結果を多角的に分析することで、新たな理論的貢献を目指す。
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