研究課題
本研究課題は、地中海型奴隷制度の概念を中心に、そのその実態と、歴史学概念としての有効性を検証しつつ、世界史上における多様な奴隷制度・隷属制度の比較研究を行うものである。この目的に照らして、初年度(平成29年度)においては、当初の設定に従って中世イスラーム社会、ポルトガル海洋帝国、アフリカ・インド洋海域、ブラジル、アメリカにおける奴隷制度・隷属制度について、研究史を踏まえつつ問題点の整理とすりあわせを行った。それとともに、奴隷制と隷属関係に関する包括的な類型化の試案を提出し、その諸特徴を分析・一般化することによって「奴隷制度と隷属」に関する包括的な議論のための準備をすすめた。このように、比較史のための包括的研究の基盤を整理するとともに、個別に史料調査・分析を進め、また必要に応じて海外における写本調査などを行った。これらの一環として、平成29年11月にはUCLA名誉教授オルパース氏を招聘して、本課題主催の国際ワークショップBonded Migration and Identity in the Indian Ocean World, 18th-20th Centuryを開催した。このワークショップにおいて、清水が「地中海型奴隷制度」研究の意義を述べるとともに、オルパース氏、重松伸司 氏(名古屋大学)、鈴木英明氏が、それぞれインド洋の奴隷制と文化の伝播、インド-東南アジア間の隷属民の移住、近代イランの逃亡奴隷に関する報告を行い、国際的、世界史的視野における奴隷制度・隷属の諸類型についての意見交換を行うことによって、地中海的奴隷制度論の有効性を検証した。これらの研究によって本課題研究においては、研究者間において奴隷制と隷属に関わる問題意識を共有し、その論点の整理を行うなど、国際的な奴隷・隷属民研究をすすめ、その成果は、国内外の学術雑誌その他に論文および著作として発表した
2: おおむね順調に進展している
初年度として研究の基盤を着実に整えるとともに、各地域・社会における奴隷制度のあり方の研究を開始し、その事例における基本的な構造を、研究目的に沿った形で提出した。 その成果は、国際シンポジウムを含む3回の研究会で報告がなされたほか、学術論文、研究集会報告といったかたちでも発表し、国内だけでなく国際的にも積極的な問題的を行った。また、弘末雅士氏(立教大学)を研究代表とする基盤A課題「近代移行期の港市と内陸後背地の関係に見る自然・世界・社会観の変容」や上田信(立教大学)研究代表とする基盤A課題「渡海者のアイデンティティと領域国家:21世紀海域学の史学的展開」と連携することにより、地中海型奴隷制度研究の枠組みを海域史研究の連動させて展開することが可能となり、より広範な地域・時代の研究動向と本課題の連携を図ることが可能なった。これらの結果、平成30年度史学会大会において、大会本部のオファーにより、本課題を中心としたシンポジウム「「奴隷」と隷属の世界史(仮題)」開催することとなり、そのための準備を開始した。以上により、本研究は順調に進展している判断できる。
平成30年度には11月に開催される史学会大会シンポジウム「「奴隷」と隷属の世界史(仮題)」の準備に向けて2度の研究会を開催し、これまでの研究を整理し論点を整理するとともに、研究分担者外の研究者たちと連携して、より広範な地域・時代における「奴隷制度・隷属」に関する比較研究をすすめ、シンポジウムにおける建設的な議論形成に備える。シンポジウムにおいては、本課題を発信源として「地中海型奴隷制度」概念を国内外の学界に共通認識とすべく、問題提起を行っていく。同時に、これらと連動するかたちで海外の研究者招聘を行い、年度末に国際ワークショップを開催し、国際的な場における同概念の有効性の検証をすすめる。これらの基礎として、各メンバーは担当する地域・社会の個別事例の研究を深化させつつ、常時、情報提供・情報交換を行い、連携して共同研究を行う。また、個々メンバーが海外における資料調査、実地調査を実施するが、本年度には特にアフリカ西海岸を中心とした海外共同調査を実施し、それぞれの研究対象地域・時代と、アフリカにおける黒人奴隷生産・輸出・展開のありかたとの関係性を検証し、本課題の更なる展開を進める。
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歴史学研究
巻: 963 ページ: 10-18