研究課題/領域番号 |
17H02375
|
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
野上 建紀 長崎大学, 多文化社会学部, 教授 (60722030)
|
研究分担者 |
渡辺 芳郎 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 教授 (10210965)
田中 和彦 鶴見大学, 文学部, 准教授 (50407384)
佐々木 達夫 公益財団法人古代学協会, 客員研究員 (60111754)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | ガレオン貿易 / チョコレートカップ / 中南米 / 地方窯 / 殖産興業 / 島嶼 |
研究実績の概要 |
近世のグローバル化とともに、アジアの特産であった磁器も新世界を含む世界的な商品となっていった。磁器が短期間のうちに世界を覆うように広がっていった要因と様態を明らかにすること、そして、その後のグローバルな磁器の使用普及の過程とその共通背景を明らかにすることを研究目的としている。 そのため、平成29年度はアジア(フィリピン)、中米(メキシコ)、南米(アルゼンチン、チリ)、日本(五島列島)の各地のフィールド調査を実施した。まずグローバル化に伴い磁器の市場が世界に広がる過程について、ガレオン貿易による陶磁器流通に着目し、磁器の生産地であるアジア側の貿易拠点であるフィリピン、アメリカ側の政治経済の中心地であるメキシコシティ、そして、磁器生産地から最も地理的に遠い市場となる南米大陸の中緯度地方であるアルゼンチン、チリの出土陶磁器の調査を行った。その結果、マニラ建設後にガレオン貿易ルートが開設されてから、比較的早い段階で中国磁器が南米大陸の中緯度地方にまで運ばれていることが明らかになった。そして、その後の普及に嗜好品の器(中南米であれば、チョコレートカップ)が一定の役割を果たしていることがわかった。嗜好品の急速な普及とともに、その器である磁器が普及していったのである。 そして、近世後期に日本国内で磁器使用が一般化する上で重要な役割を果たした地方窯の役割を明らかにするために、五島列島の福江島の窯跡群の踏査および測量調査を行った。これらの窯跡を選んだのは、当時の日本磁器の生産の中心地である肥前地域に近い位置にある島嶼部で磁器が生産された経緯、背景、役割について明らかにしたいと考えたからである。平成29年度は現地踏査による窯跡の位置の確認、採集資料の分類および実測作業による基礎資料づくりを行うことができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本、アジア、中南米の地域の4ヶ所のフィールド調査を行うことができた。それぞれに成果が上がっている。まず日本では福江島の4ヶ所の窯跡の位置を確認し、それぞれの採集遺物の実測、写真撮影を行い、基礎資料を収集することができた。アジアではフィリピンのマニラ沖で沈んだガレオン船の積荷の調査を行い、中米のメキシコでは新大陸側の港湾都市であるアカプルコの出土陶磁器を調査し、近世日本の磁器や東南アジア産の陶器壷等を発見することができた。また、メキシコの主要な消費都市であるグアダラハラでも大聖堂に残る日本磁器をはじめとしたアジアの磁器も確認することができた。そして、南米のアルゼンチンおよびチリではガレオン貿易開始後ほどなくアジアから運ばれた中国磁器の資料の確認とそれらの実測と写真撮影による資料化を行うことができた。 また、平成30年度以降の研究に向けての準備も行うことができた。一つは福江島の窯跡の発掘調査を実施をするための基礎資料の収集、もう一つはメキシコシティ郊外のカルパンの発掘調査のための情報収集である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後、磁器市場の普及過程について、日本、東南アジア、インド洋周辺、中南米のそれぞれの地域について調査研究を進めたいと考えている。日本については島嶼部の窯をはじめとした地方窯の研究を行う。五島の福江島に所在する田ノ江窯跡の発掘調査を行い、その技術系譜と製品の種類により地方窯の成立要因と背景を明らかにする。また、低廉な磁器を量産した一大生産地である波佐見焼の研究を行う。すでに発掘調査による成果の蓄積があるため、それらの再整理を行いながら、地方窯との比較を行う。そして、アジアについては18世紀以降に東南アジアなどに大量に出回った福建省徳化窯系の製品の生産地と消費地調査を行い、東南アジアにおける磁器使用の普及過程を考える。そして、インド洋周辺や中南米については、18世紀以降のアジア産磁器とヨーロッパ産磁器との関わりをみながら、磁器使用の普及を考える。特に中米については、スペイン植民地時代の地方都市の発掘調査を実施し、考古学的に磁器使用の変遷を明らかにしたい。日本、東南アジア、インド洋周辺、中南米など、各地域の調査成果を比較しながら、同時並行的に研究を進めて行きたい。
|