研究課題/領域番号 |
17H02375
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
野上 建紀 長崎大学, 多文化社会学部, 教授 (60722030)
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研究分担者 |
渡辺 芳郎 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 教授 (10210965)
田中 和彦 鶴見大学, 文学部, 准教授 (50407384)
佐々木 達夫 公益財団法人古代学協会, その他部局等, 客員研究員 (60111754)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ガレオン貿易 / チョコレートカップ / 中南米 / アフリカ / 地方窯 / 殖産興業 / 島嶼 |
研究実績の概要 |
本研究は、テーマI「1571年に始まるグローバル化と磁器の商品化(16~17世紀)」とテーマII「グローバルな磁器の浸透と大衆化(18~19世紀)」の二つのテーマを連接させて研究するものである。すなわち、近世のグローバル化とともに、アジアの特産品であった磁器が新世界を含む世界的な商品となり、短期間のうちに世界を覆うように運ばれていった要因と様態を明らかにすること、そして、その後、離れた地域や大陸において同時代的にグローバルな規模で磁器の使用普及が一般社会層にまで進んだ過程とその共通背景を明らかにすることを研究目的としている。 研究初年度である2017年度は、日本、アジア、中米、南米の各地のフィールド調査を実施した。まずテーマIについて、ガレオン貿易による陶磁器流通に着目した。その結果、チョコレートなどの嗜好品が世界商品となり、急速に世界中に広まる中で、その器としての需要もまた世界に広がったことが考えられ、嗜好品への渇望が磁器の普及に一定の役割を果たしていたことを確認した。 2年目の2018年度は、日本、アジア、アフリカの各地のフィールド調査を実施した。テーマIについては、インド洋交易によって東アフリカに運ばれた磁器について現地調査を行なった。そして、テーマIIについては、五島列島で磁器を生産した窯跡の発掘調査を行い、大規模な窯で生活用品としての磁器を大量に生産していたことを明らかにした。そして、その生産技術も当時最大の磁器生産地である肥前地方の技術だけでなく、文献記録や伝承にみられる天草地方や讃岐地方の技術の導入があったことが考古学的にも確認できた。全国的に磁器が特定の地域の特産品から日用品へと変化していく中で、商品としての普及だけでなく、磁器の生産技術もまた広く複雑な形で伝播したことがわかり、その結果、島嶼部においても磁器の生産と使用が一般化していったと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年の研究期間において、これまで日本、アジア(フィリピン、ベトナム)、中米(メキシコ)、南米(アルゼンチン、チリ)、アフリカ(ザンジバル、タンガニーカ)の3大陸にまたがるフィールド調査を行うことができた。テーマI「1571年に始まるグローバル化と磁器の商品化(16~17世紀)」については、フィリピン、中南米とアフリカにおいて数多くの東洋磁器の発見を行い、その流通状況を把握することができた。一方、テーマII「グローバルな磁器の浸透と大衆化(18~19世紀)」については五島列島の島嶼部の窯跡の発掘調査や地方窯(天草地方、讃岐地方)の踏査を行い、多くの成果を得ることができた。特に五島の窯跡は、これまで全く考古学的な調査が行われていなかった遺跡であり、今後の研究につながる多くの知見を得ることができた。 そして、ベトナム、アルゼンチン、チリ、ザンジバル、タンガニーカ、五島列島の調査については、それぞれ成果を公開している。
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今後の研究の推進方策 |
今後もテーマI「1571年に始まるグローバル化と磁器の商品化(16~17世紀)」とテーマII「グローバルな磁器の浸透と大衆化(18~19世紀)」の二つのテーマの研究を連接させながら推進していく。また、地域的には日本、アジア、アフリカ、アメリカのフィールド調査を研究分担者や研究協力者と分担・協力しながら行っていく。日本は生産地と流通拠点と消費地、アジアは生産地と消費地、アフリカとアメリカは消費地の調査を行う。 具体的にはまずテーマIについて、中米のメキシコのカルパンの修道院の発掘調査を行い、磁器の普及度について、考古学的に変遷を明らかにする。特にチョコレートカップの出土状況には注目したい。急速な嗜好品の普及が新大陸における磁器の普及の一因となったと考えており、それらを使用した主要な場所が修道院など宗教施設と考えるからである。また、東アフリカのタンザニアに加えて新たにケニアの調査を行い、インド洋海域における磁器の流通状況を調査する。 そして、テーマIIについて、五島列島の窯跡の発掘調査を継続するとともに、東南アジア市場における磁器使用の一般化に大きな貢献を果たした中国南部の磁器生産地(徳化窯など)の現地調査を行い、その生産状況を調査する。前記のアメリカやアフリカの調査結果と比較しながら、アジアにおける磁器使用の一般化について考察する。 それから、テーマIとテーマIIの調査成果を元に、その他の近世の世界商品(絹、茶、銀、砂糖、奴隷など)の流通の様態と比較しながら、磁器の生産と流通を相対化していきたい。
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