研究課題/領域番号 |
17H02377
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研究機関 | 武蔵大学 |
研究代表者 |
高橋 一樹 武蔵大学, 人文学部, 教授 (80300680)
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研究分担者 |
小口 雅史 法政大学, 文学部, 教授 (00177198)
千葉 敏之 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (20345242)
坂上 康俊 九州大学, 人文科学研究院, 教授 (30162275)
岡崎 敦 九州大学, 人文科学研究院, 教授 (40194336)
加納 修 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (90376517)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 比較史 / 中世 / 書簡 / 統治 / 文書学 / コミュニケーション |
研究実績の概要 |
2年目にあたる本年度は、日本班と西欧班それぞれの史料収集とデータ分析を継続するとともに、国内研究会(全体研究会)とヨーロッパでの史料原本調査を組み合わせて開催し、議論を積み重ねた。 国内研究会では、日本側と西欧側それぞれの書簡史料に関する固有の研究状況と史料の具体相に関する報告、そして比較史検討をひきつづき行った。 まず日本古代の書状をめぐる報告と討議では、近年研究が活発化している中国の書儀の受容状況をふまえて、書状様式の成立と展開、とりわけ上位者の意思の伝達を意図して下位の者の名義で記された書簡体文書について、通説の見直しを含めて考察を進めた。そこでは、前年度に明確となった日欧での“文書”概念のズレとその架橋の必要性ともかかわって、日本の古文書学による史料用語(文書の名称を含む)それ自体の概念化が、比較研究はもとより、書簡体文書を軸とした日本の古代・中世文書研究にとっても史料分析の障壁となる事態を認識し、次年度も継続的に検討を深めることとした。 さらに、Martin Gravel(パリ第8大学)を招聘して、日本古代・中世の書簡体文書の原本とその研究状況にもとづくワークショップを国立歴史民俗博物館で行うとともに、中世初期における政治的コミュニケーションの文脈から書簡の形式とその機能を論じる日欧比較の研究会を開いた。これらを通じて、王などの発給する証書と書簡との様式・形式の相違を機能の動態に即して分析することの意義が再認識されたこともふまえ、3月にはフランスのストラスブールとコルマールの文書館において、世俗君主のみならず中世盛期以降の教皇・司教といった教会権力の発給文書の原本を閲覧・撮影し、本調査のコーディネートと各文書の詳細な解説をしてくれたBenoit-Michel Tock(ストラスブール大学)らと日欧文書比較の方法論的課題を文書原本の情報に即して整理することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
書簡体文書を中心とした日欧古代・中世の古文書原本の分析と情報共有にもとづき、文書史料に関する基本的な性格規定や文書類型、分析概念などで多国・地域間での対話を可能にするべく、日本の古文書学のグローバル化をはかり、比較文書学の創生に寄与しうる学術的基盤づくりをめざす、という本研究の目標については、以下の点からおおむね順調に進展していると考えられる。 ① 日欧それぞれの書簡史料に関する研究状況の共有と史料学的方法論の開拓をめざす基礎的研究会を引き続き積み重ねるなかで、古代から中世への移行にともなう史料的現象の分析と論点の抽出・整理に着手した。 ② 中世盛期以降の国王証書や教皇の発給にかかる書簡体文書などの原本を対象としたフランスでの文書調査と現地研究者との議論、さらにフランスからカロリング期を専門とする研究者を招いての日本中世の書状原本を素材としたワークショップ、政治的コミュニケーション論の観点から書簡史料を読み解く比較研究会を通じて、統治行為の実態に引き付けるかたちで書簡の形式的・機能的特徴を抽出する作業に取り組むことができた。 ③ ヨーロッパ文書学の立場から鎌倉期を中心とする日本中世の古文書について概説したF.J.Longraisの著書をめぐる準備的研究を進め、次年度にヨーロッパから研究者を招聘した研究会の開催を計画した。
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今後の研究の推進方策 |
国内での全体研究会および日本・西欧の各班ごとの検討会と連動させながら、ドイツに滞在している連携研究者のコーディネイトによる中世教皇文書の原本調査とワークショップをドイツで実施する。国内での全体研究会では、それに備えて、中世教皇文書を専門とする在独の専門研究者から原本の画像を用いた事前のレクチャーと質疑を行うとともに、日本の古代から中世への移行過程を書簡史料論の視角から掘り下げる研究会を設定する。さらに、日欧中世の文書学史の比較のためにフランスから研究者を招聘してワークショップとセミナーを開催する。これらの成果をふまえて、4年目に開催する予定の国際シンポジウムの内容を確定させるための準備も進める。
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