研究課題/領域番号 |
17H02383
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 尚史 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (60262086)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 危機対応 / 総合地域史 / 釜石 / 震災 / 人口減少 / 社会的記憶 / 慢性的な危機 / 突発的な危機 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、岩手県釜石市を中心的な事例として、地域社会における危機対応のあり方を歴史的な視点から考察することにある。2年目である2018年度は、昨年度と同様に集中的な現地調査と、対象地域の人々との意見交換会、そして東京での調査研究会という3つの柱を中心に、調査・研究を進めた。 まず現地調査については、8月21日から25日にメンバーの多くが参加する総合地域調査を実施し、主としてオーラル・ヒストリーの手法によって詳細な聞き取り調査を行った。さらに2019年1月24日から27日にも追加の現地調査を行い、地域調査の仕上げとした。なおこれらの現地調査には、釜石市役所の多大なるご協力を得ることができた。 また地域との意見交換の場として、釜石市において年3回のトークイベントを企画し、それぞれ社会的記憶(5月)、地方行政(11月)、地域経済(1月)をテーマに、地域の人々とともに活発な議論を展開した。また8月25日には、やはり釜石市で「地域の危機対応学」というテーマで、調査・研究の公開中間報告会を実施した。こうした地域の人々との度重なる議論の中で、地域における危機対応の歴史的位相が浮かび上がり、今後の研究の取りまとめの大きなヒントを得ることができた。 さらに4月、6月、7月、10月には、東京で開催する釜石調査研究会に釜石市役所からゲストを招き、地域の危機対応について現場の声を含めて、濃密な議論を行った。そして12月と2月には、成果取りまとめにむけた研究会を東京で開催し、各班に現在までの調査の進捗状況と成果について報告してもらった。 以上の調査・研究の結果、釜石市をはじめとする東日本大震災被災地では、震災前から進行していた人口減少や経済収縮にともなう慢性的な危機と、震災にともなう突発的な危機(復興予算による財政の肥大化等)、危機の記憶の継承の問題などが、折り重なっていることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の最も重要な調査研究は、8月に実施した釜石地域における総合地域調査であり、この調査には30人の研究者が参加し、1週間にわたり一斉に現地調査を行った。そしてその成果について、隔月ペースで実施した調査研究会で報告し合い、情報の共有と論点のすり合わせを行った。また現地でのトークイベントや中間報告会を通して、地域の人々との意見交換を行い、論点の洗い出しを行った。さらに12月と2月には成果取りまとめにむけた、密度の高い研究会を開催し、地域における危機対応の歴史的展開について議論を深めることができた。そのため、予定より早く日本語の成果本の刊行が決まり、各班ともに原稿の執筆に取りかかっている。
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今後の研究の推進方策 |
調査・研究自体は、極めて順調に進行しており、成果取りまとめにむけて、研究内容をまとめる段階に入っている。今後は、国内外での追加調査を行いつつ、日本語書籍『地域の危機対応学(仮)』を刊行することが一つの目標となる。現在、すでに出版社は東京大学出版会に決まっており、2019年度末の刊行を目指している。 もう一つの目標は、海外への研究成果の発信である。具体的には、海外での学会報告や英語書籍の刊行をめざしている。そのために英語原稿を用意するとともに、今後、海外での研究活動や出版社交渉を行う必要がある。とくに海外での学術書出版は時間がかかるため、なるべく早く準備に取りかかるようにしたい。
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備考 |
本研究「危機対応の総合地域史的考察」は、東京大学社会科学研究所と釜石市が共同で立ち上げた危機対応研究センターの事業の一つである。
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