研究課題/領域番号 |
17H02384
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
石居 人也 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (20635776)
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研究分担者 |
阿部 安成 滋賀大学, 経済学部, 教授 (10272775)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 日本史 / 近現代史 / ハンセン病 / 隔離 / 療養 / 生 / 現場 / 展示 |
研究実績の概要 |
本研究の2年目となった2018年度には、国立療養所大島青松園へ高い頻度で赴き、入所者自治会事務所・文化会館図書室・社会交流会館などで、歴史資料(以下、史料)の調査・撮影・整理・目録作成などをおこなった。成果として、おもに以下の3点をあげることができる。 1点目は、大島を訪れた人びとが、大島の歴史に「現場」で触れる糸口となるよう、2017年度に島内各所に設置した「史跡めぐり」の解説パネル執筆の蓄積をふまえて、大島の歴史を、根拠となる史料やレファレンス情報とともに示したことである。これは、歴史研究にとってあたりまえともいえるが、大島で長く生きてきた療養者は、自らの経験を幾重にも折りかさねて記憶しており、史料や聞きとりによってそれらをひきだそうとするとき、そこから得られる多様な情報はしばしば矛盾ないし錯綜する。歴史を叙述しようとする者は、それを慎重に解きほぐし、判断の根拠とともに提示する必要があるが、従来の大島の歴史叙述においては、それがかならずしも充分になされてきたとはいえない。そうした状況から一歩ふみだすために、検証や蓄積が可能な歴史叙述にむけた、環境整備を進めた。 2点目は、社会交流会館のオープン準備と連動した史料調査の進展である。展示室や図書室を備えた社会交流会館の正式オープンが2019年4月と決まったことをうけて、それを念頭におきながら、調査・研究とその成果のフィードバックをおこなった。療養者の自治組織が管理してきた文化会館図書室の蔵書や、文化会館とは別の場所で療養者個人によって収集・保管されてきた書籍群の調査・整理・目録作成を、集中的に進めた。 3点目は、病者・療養者の生を、「現場」で、展示という方法を用いて、どのように示し得るのかという観点から、ハンセン病と水俣病にかかわる複数の展示施設を調査したことである。調査をとおして、展示のもつ可能性と課題が浮き彫りになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、大島での社会交流会館の正式オープンにむけて、変化する「現場」の状況に対応しながら、以下のとおり研究を進めた。 A.大島青松園 社会交流会館の正式オープンが2019年4月に決まったことで、そこにむけたスケジュールに対応し、作業に協力しながら、調査・研究を進めた。文化会館の図書室・書庫の蔵書あわせて8000冊ほどが、すべて社会交流会館の図書室・書庫へと移されることになり、それに先だって燻蒸をおこなうと決まったため、年度の前半は、目録作成を中断して、原状(文化会館での最終的な配架状態)記録と燻蒸・移動の準備を集中的に進めた。燻蒸作業ののち、書籍のクリーニングと移動をおこなったうえで、年度の後半は原状を記録した画像と社会交流会館に移った現物を用いて、調査と目録作成を続けた。また、社会交流会館図書室のコンセプトや配架の方針、図書室内展示のあり方などについても検討をおこなった。自治会事務所では、調査・研究のなかで得られた知見や史料をふまえて療養者から話を聞き、それをもとに史料を分析するなど、史料と聞きとりを往還させながら歴史像を探った。かつてない訪問頻度で、刻々と変わる「現場」の状況に対応することができた。 B.沖縄愛楽園 大島に時間と予算の多くを充てたため、論集にむけた作業は、おもに電子メールを用いて進めた。別財源を用いることにはなったが、沖縄愛楽園に赴く機会を設け、社会交流会館で打ちあわせをおこなうことができた。2019年度の刊行を目指して、目下推敲をかさねている。 C.その他 病者・療養者の生を「現場」で問い、表現している展示施設の調査をおこなった。とりわけ水俣では、公立の博物館とNPO法人が運営する博物館とで展示方法・内容に大きな違いがあることがわかり、展示のもつ可能性と課題について、認識を深めることができた。 以上より、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度に得られた成果をもとにして、以下の調査・研究を実施する。 A.大島青松園 ①新設の社会交流会館図書室へと移動させた蔵書(文化会館旧蔵書)を分類・整理したうえで、社会交流会館において閲覧と展示に供する。②ひき続き文化会館旧蔵書の調査・デジタル撮影を進め、原状記録画像を用いるほか、適宜補充調査をおこないながら、2種類の目録(図書として扱うための目録、史料として扱うための目録)を作成する。③②の調査の成果と既整理の史料とをあわせて分析し、そこからみえる療養者の生について考察する(石居中心)。④療養者との対話の機会を設け、療養者や療養所のこれまで、いま、これから、について継続的に考える。⑤変化の著しい療養所内のフィールドワークを定期的におこなう(阿部・石居)。⑥療養所に関わりのある人びと、とりわけ療養者の歩んできた足跡を地域社会にたどるとともに、⑦地域社会に残された史料の調査をおこなう(石居中心)。 B.沖縄愛楽園 ①青木恵哉関係史料の調査・デジタル撮影、②沖縄愛楽園関係史料の調査・デジタル撮影を継続的におこなうとともに、③青木恵哉と沖縄愛楽園の草創期について考える論集をまとめる(阿部・石居)。 C.その他 ①これまでの大島・沖縄での調査・研究の成果をふまえながら、ハンセン病をめぐる史料の保存・管理・活用を「現場」で模索し続けている、国立ハンセン病資料館(東京都)や重監房資料館(群馬県)などの調査をおこなうとともに、②病をめぐる歴史の展示や、史料の保存・管理・活用を「現場」で実践してきた先行例ともいえる、水俣病をめぐるとり組みについて調査する(阿部中心)。③病者・療養者の生や療養所の表象のあり方に着目して、書籍・展示・映像作品・報道などを調査・分析する。④療養所という「現場」で、その歴史や史料ととり組んでいる学芸員や研究者などによるシンポジウムを企画・実施する(阿部・石居)。
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