研究課題/領域番号 |
17H02392
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
大橋 幸泰 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (30386544)
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研究分担者 |
牧野 元紀 公益財団法人東洋文庫, 研究部, 研究員 (80569187)
折井 善果 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 准教授 (80453869)
岸本 恵実 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (50324877)
平岡 隆二 熊本県立大学, 文学部, 准教授 (10637622)
森 有子 (清水有子) 明治大学, 文学部, 専任講師 (00727927)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | キリシタン / 異文化 |
研究実績の概要 |
初年度の2017年度は、世界各地に存在するキリシタン関係史料の収集に力を入れた。外国所在の史料調査として、ヨーロッパでは、ローマのイエズス会文書館、イタリア国立中央図書館、プロパガンダ・フィデ文書館、カサナテンセ図書館、マドリッドのスペイン王立アカデミー図書館、パリのパリ天文台、などにて、イエズス会宣教師とキリシタン信徒に関わる史料を調査した。アジアでは、マカオの歴史文書館、上海の徐家匯蔵書楼、北京の国家図書館、ハノイの国立ベトナム社会科学院ハンノム研究所にて、同様の趣旨の調査を行った。また、国内所在の史料調査としては、大分県立先哲史料館にて、類族関係史料を収集した。 研究発表としては以下の実績があった。7月に人間文化研究機構(国文学研究資料館)・東京大学史料編纂所を拠点とするマレガプロジェクトの研究集会「バチカン図書館所蔵切支丹関係文書群の魅力を探る」に参加した。同プロジェクトは、3年に一度行われるEAJS(the European Association for Japanese Studies)の国際会議にパネル“The early modern system of regulations against Christians and its influence: a work-in-progress report on the Marega Collection in the Vatican Library”を申請し採用されたが、9月にリスボンで行われた同国際会議にパネリストとして参加した。さらに、12月に行われたキリシタン文化研究会に参加し、研究発表を行った。この間、7月と11月に科研メンバーによる研究打ち合わせをそれぞれ東京と大阪で行い、史料所在の情報を共有するとともに研究に関する意見を交換した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度としては史料収集を円滑に進めることができたと考えるが、世界各地に存在するキリシタン関係史料を集めるには十分とはいえない。 史料調査の過程で、史料の所在の問題として、ヨーロッパとアジアとの関係が明らかになったこともある。たとえば、現在マドリッドのスペイン王立アカデミー図書館に所蔵されていると知られる日本関係史料群が、もともとマカオに存在していたことを認知できたことがあげられる。また、イエズス会文書館に所蔵されている史料の中には、日本とアジアで活動していた宣教師の記録が多数あり、ヨーロッパとアジアはキリシタンの宣教活動を通じて深い関係を持っていたことを実感できた。また、アジアで収集した史料群から実感できることも同様である。 国内での史料調査からは、類族をめぐる社会状況について新しい知見を得ることができた。類族とは、キリシタンと棄教前に生まれたキリシタンの子を本人または本人同然とし、それから数代にわたって監視の対象とされたキリシタンの子孫のことである。彼らは厳しい禁教下で、人生の節目において村役人や藩役人によってチェックを受けた。しかし、この制度を貫徹するためには、誰が類族で誰が非類族かがわからなければならなかったから、結局監視対象は非類族にも及ぶ。したがって、類族改制度は非類族を含めた被治者の管理システムであったといわなければならない。また、類族と非類族の縁組などは珍しくないことや、奇特人の褒賞から非類族が除かれている形跡はないことなどから、これまで考えられてきたような特別な疎外はなく、類族とは人々が保持する多数の類族の一つであると考えたほうが当時の実態に合っているように思われる。ただし、類族の監視は厳密であったことも確かなので、これをどのような言葉で表現するかが今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、国内外の史料保存機関に所蔵されているキリシタン関係史料の収集に努める。ヨーロッパに残されている史料の内容が、日本を含めたアジアに残されている史料によって確認される一方で、逆のこともある。史料調査の過程で科研メンバーはみな、世界各地に散在するキリシタン関係史料が地球横断的に結びついていることを実感している。今後も史料調査を進めつつ、その事実を具体的に実証していくことが求められる。 本年度はこうした史料調査とともに史料分析を進め、その成果の中間発表の準備を始める。その一環として、人間文化研究機構(国文学研究資料館)と東京大学史料編纂所を拠点に進めている共同研究マレガプロジェクトと連携して、2019年度に国際シンポジウムを開催することを計画している。日本を含めた東アジアと東南アジア、各地域のキリシタンの受容と反発の様子について比較検討したうえで、近世期のキリシタンとは当該地域に何をもたらし、何を奪い、何を改変したのか、その伝来の意味について議論したい。そのシンポジウムでは、本科研のメンバーが登壇する他、近世の中国・朝鮮のキリシタンを研究している外国人研究者を招聘することを考えている。その交渉と打ち合わせ、および史料調査をかねて、今夏、渡欧する計画である。 それに加えて、科研メンバー間の情報共有と意見交換のため、研究会を開催する予定である。また、毎年12月に開催されるキリシタン文化研究会や隣接分野の研究会など、外部の研究会において、科研メンバーが研究発表の機会を持つことができれば、いっそう充実した研究成果を得られるものと確信している。
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