研究課題
今年度はこれまでの簿記術指南書の講読を通して得られた知見を、オスマン朝のトプカプ宮殿に伝世した帳簿史料の解読に応用することを試みた。具体的には18世紀オスマン朝の宮廷財庫の出納簿、政府高官の没収財産記録簿、王族による寄進によって設立された図書館のワクフ会計および職員の人事俸給簿を取り上げ、簿記術の観点からこれらの分析を行った。トルコ共和国のイスタンブルにある国立アーカイブズ庁オスマン文書館で調査を行い、マフムト1世時代(1730―54)の宮廷財庫の収支簿を25年間分収集し、月ごとの収支の計上の方法、宮廷財庫における金品の出納の実態を分析した。またこれらを没収財産記録簿と対照することにより、解任あるいは処刑されたか、または病没した政府高官の没収財産が、現物として宮廷内の財宝庫に接収されたり、市場で売却されて換金され現金として宮廷財庫に納められたりした一方、宝飾品や衣服は下賜され、図書については図書館に寄進されていたことを明らかにした。またマフムト1世がアヤソフィヤ図書館に寄進した財源から上がる膨大な収益から、火災により焼失した財務長官府の再建費用をまかなった事実を突き止めた。国家財政とは一見無関係に思える図書館のワクフ会計から、財務長官府の建築資材や各部局の空間的構成が明らかになり、オスマン朝における財務行政の中核を担う行政機構でありながら、不明点が多い財務長官府の具体的な部局組織の解明に一石を投じることができた。ワクフ職員の人事俸給簿の分析からは、縦横斜めにびっしりと記された文字列が、人事異動に沿った独自の配列秩序を持つことを明らかにした。研究の最終年度にいたって、簿記術指南書からうかがわれた簿記術の理論が、実地にどのように適用され、またこれらの知見をもとに帳簿史料がいかに正確に解読できるかを、具体的な歴史的事実を踏まえてようやく明らかにすることができたと言える。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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Knowledge and Power in Muslim Societies: Approaches in Intellectual History
巻: 1 ページ: 251-276
Osmanli Kitap Koleksiyonerleri ve Koleksiyonlari: Itibar ve Ihtiras, haz. Tulay Artan - Hatice Aynur
巻: 1 ページ: 43-129