研究課題/領域番号 |
17H02415
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
大坪 志子 熊本大学, 埋蔵文化財調査センター, 准教授 (90304980)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 縄文後晩期 / クロム白雲母 / 玉 / 製作 / 工房 |
研究実績の概要 |
本年度は、熊本県菊池市所在三万田東原遺跡の試掘調査を実施した。 実施前、現地視察を含む検討会を開催した。予想される遺跡範囲が広大であるが、既往の調査では必ずしも遺構配置が明確になっていないため、トレンチ調査による確実な遺構の把握を本年度は目指すこととした。昨年度実施して竪穴建物である可能性が高いと判断された地点(A地点とする)の再確認を行うとともに、A地点の北側に隣接する畑地が有望かつ調査実施が可能であるため(B地点とする)、この2地点において確認調査を実施する方針とした。 11月下旬から、2地点において計6本のトレンチを設定して調査を実施した。調査は、遺構面まで表土・埋土を除去し、包含層上面で遺構の有無を確認する方法をとった。 A地点では1×41mのトレンチを設定した。竪穴建物と考えられた箇所は、縄文時代後晩期の竪穴建物であることを確認することができた。このほかにも竪穴建物あるいは土坑と考えられる遺構4基と土坑3基を確認できた。B地点では1.3×47mのトレンチ2本、1.3×32m、1.3×10m、1.3×65mのトレンチを各1本設定した。この結果、竪穴建物3基および円形遺構(土坑)4基、溝1条を確認することができた。竪穴建物はいずれも、20~30㎝程度の深さが残されている。昭和40年代の圃場整備事業による削平が懸念されたが、遺跡の残存状況は予想より良好である。 出土遺物は、縄文時代後期後葉から晩期初頭までの土器、土偶(腕部)、石器である。また、B地点で試験的に実施した土壌の篩と洗浄で、玉の素材であるクロム白雲母片を回収でき、検出した遺構は玉の製作を行った工房である可能性が高いと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、縄文時代後晩期のクロム白雲母を利用した玉製作の実態を把握することが目的であり、工房の発掘調査を実施して達成しようとするものである。 広大な遺跡内において、遺構(本研究では竪穴建物)の位置を探し、把握することはもっとも困難な段階の一つであるが、本年度の試掘で本研究で目指す複数の遺構を把握することができた。遺構の残存状況も良好である。また、本研究では、遺構がクロム白雲母を利用して玉の製作をおこなった工房であることが求められるが、一部竪穴建物内の土壌を篩にかけ、洗浄したところクロム白雲母片が検出された。当該遺構が工房である可能性が高まったと判断される。 以上、玉の製作工房と考えらえる遺構の把握ができ、実際に発掘調査を実施して目的の遺物を回収する目途を付けることができたのは、大きな進展である。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、平成29年度の試掘調査により把握した竪穴建物の発掘調査を実施する。土壌の篩と洗浄を徹底して行い、玉製作に係る遺物(クロム白雲母やその他石材を含む原石、破片、製作道具等)の回収に努める。平成30年度は、平成29年度の出土遺物の整理作業も平行して進めていく。また、三万田東原遺跡には、A地点・B地点以外にも、有望な地点が存在する。土地所有者との交渉次第であるが、可能であれば、その地点の試掘を実施し、本調査につなげ、を可能な限り多くの資料を収集したい。平成31年度まで、このように発掘調査を実施し、平成32年度には、調査成果をまとめる予定である。 遺構(竪穴建物)を把握し、発掘調査・土壌の篩と洗浄を進めていくが、実際に掘削するまでは、その遺構が工房であるかは確実には分からない点もある。これまでの、玉に関する表採資料や試掘で可能性の高い地点や遺構を選択するが、工房でない場合が生じる可能性もある。その場合は、至急、別の地点、あるいは別途遺跡を選択し、試掘を実施して対応していく予定である。
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