研究課題/領域番号 |
17H02415
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
大坪 志子 熊本大学, 埋蔵文化財調査センター, 准教授 (90304980)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 縄文時代後晩期 / クロム白雲母 / 製作 / 玉 / 化学分析 |
研究実績の概要 |
本研究は縄文時代後晩期のクロム白雲母を主とする石製装身具の製作実態の解明を目的とし、今年度も熊本県菊池市所在三万田東原遺跡において発掘調査を7月・12月~1月初旬の2回実施した。 7月は、昨年度に溝・土坑を検出した調査区(久川地区)の隣接地に調査区を設定した(永松地区)。竪穴建物や溝など遺構の検出の可能性が高いと判断したためで、本地点では溝の続きを検出した。2カ所で、溝の土壌を掘削・採取し篩にかけた。その結果、数点のクロム白雲母を検出した。 12月~1月初旬は、調査地点を7月までの調査範囲から南に約100m移して実施した(梁池地区)。本地点も石製装身具の製品や原石が表面採集されており、遺物・遺構検出の可能性が高いと判断されたためである。3か所トレンチを設定して試掘したのち、遺跡の保存状態が最も良好なトレンチを掘削した。遺物包含層から、クロム白雲母製の石製装身具が検出されるのが、目視でも容易に確認できる状態であったため、このトレンチを広げてグリッドの再設定を行い、このうち約8㎡の土壌を、表土層以下遺物の出土が無くなくなる遺構面近くまで回収し、現地で全て水洗した。 水洗は1㎜の篩で行った。この結果、クロム白雲母製および滑石製の玉、原石、未成品、失敗品、剥片などが約2,000点回収された。また、縄文土器のほか、小型の錐や持ち砥石と考えられる片岩製の石器など、製作道具の可能性が高いと考えられる遺物も回収することができた。 掘削地点については、熊本県教育委員会の専門職員から、層序・地質に関する助言もあり、竪穴建物の一部が当該グリッドにかかっていた可能性が高いと判断された。これらから、縄文時代後晩期の玉製作の工房と石製装身具の製作工程を明らかにするための、良好な一括資料が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は九州ブランドともいえる縄文時代後晩期のクロム白雲母製石製装身具の製作実態の解明と目的としており、当該期の石製装身具の製作工房と考えられる竪穴建物の発掘調査を実施し、篩で穿孔具(石針)などの微細な遺物も逃さず回収することが必要である。 本年度は、調査対象地の休耕と調査実施希望期間の調整がうまくゆき、良好な研究資料を得ることができた。昨年度までは、研究資料の獲得が困難でやや遅れた状態であったが、今年度は、良好な一括資料を得られ、リカバーできた。次年度の作業に向けた遺物の検討会を実施した。新型コロナ感染の影響で、製作復元に関する検討はできなかったが、石器や土器、年代に関する事項と総括にむけた大きな方向性に関する検討は実施できた。
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今後の研究の推進方策 |
①発掘調査で得た資料の整理作業(洗浄・復元)を進め、図化と製図・計測・計量・蛍光X線分析による石材の判定、などの基礎作業を経て、基礎データを作成する。 ②ある程度基礎作業を進めた段階で、研究協力者とともに原石・未製品・失敗品・剥片等から、クロム白雲母を主体とする製石製装身具の製作工程の復元を行う。また、出土した製作道具と考えられる石器の使用痕の調査、実験などを通じて具体的な製作作業の復元も試みる。現状では、製作された石製装身具の種類がほぼ一種類に限られるようであり、資料のサイズ・重量等から、製作される石製装身具の数量の復元にも好資料と考えられる。 ③本地点から出土した縄文土器の所属年代が限定的で、石製装身具の種類も限られる。過去の調査や表面採集品との比較・精査で、三万田東原遺跡における石製装身具の製作の様子(時期差・製作体制)の検討を行う。また、復元される製作の様子と九州の他の遺跡の関係資料の比較検討を行い、製作の在り方に関する特徴の抽出・把握につとめる。 ④最後に九州におけるクロム白雲母製石製装身具の製作・流通の一つのモデルとして総括し、報告書としてまとめる。
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