研究実績の概要 |
九州の縄文時代後晩期における、クロム白雲母を主な石材とする玉文化に関し、その製作工程等の実態解明を研究目的として、熊本県菊池市所在の三万田東原遺跡の発掘調査を実施した。当該年度は、発掘調査で得た玉に関する出土遺物の整理作業と精査、および発掘調査報告書の作成・刊行を遂行した。 発掘調査現場から持ち帰った土壌を精査したところ、総数2,410点の玉の未成品・破片・原石等を回収できた。これらを基に、クロム白雲母および滑石を石材とした玉(小玉)の製作工程を初めて明らかにした。 製作工具についても新たな知見があった。まず、穿孔具の回収に成功し、実物と穿孔の実態が把握できた。縄文時代の玉の穿孔具は、少なくとも西日本では初確認と考えられる。また、玉の種類によって、研磨用の砥石の形態が異なることを解明した。今回の発掘調査では、玉の製作遺跡で出土する溝(筋)砥石が出土せず、ヘラ状で側縁に研磨面を持つ石器が多数出土した。熊本県下の玉製作遺跡出土の玉類と砥石との比較調査を実施したところ、溝(筋)砥石は管玉や勾玉の研磨に使用すること、ヘラ状の石器は手に持って使用する「持ち砥石」で、三万田東原遺跡で製作していた小玉の研磨に適することが判明した。また、溝(筋)砥石の使用実態についても再検討を行った。 特徴的なクロム白雲母の原石も多数得られ、科学分析や考古学的考察(遺跡の分布等)から、未発見であるクロム白雲母の原産地候補地を新たに推定した。今後、踏査等により原産地発見につながることが期待される。 篩(水洗選別)作業により、多くの微細破片や穿孔具を回収に成功し実態解明に繋がった。遺物の回収には篩作業が有効かつ必要であることを示す結果である。玉製作遺跡における過去の発掘調査では、多くの遺物が失われたことを示唆し、今後、玉製作遺跡における発掘調査の在り方に注意を促すものでもある。
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