研究課題
本研究は,平城宮・京跡出土木簡を対象とした年輪年代学的な同一材推定,及び荷札木簡を用いた地域標準年輪曲線を構築することにより,木簡から考古資料としての新たな価値を引き出し,考古学・古代史学・年輪年代学が融合した研究を推進する。より具体的な目的は,次の2点に絞られる。1)年輪年代学的な同一材推定により,木簡やその削屑の同一材関係や,刻まれる年輪の新旧関係を明らかにする。そして新たに接合に成功した木簡について釈読を再検討するとともに,木簡の加工技術・製作過程を復元する。2)全国から平城宮・京に集まる荷札木簡について,記載地名ごとに年輪曲線を整理し,地域標準年輪曲線を作成する。そして年輪変動の地域特異性を明らかにすることで地域区分し,古代における年輪年代学的な産地推定を行う基盤を構築する。研究3年目となる本年度は,前年度に引き続く年輪画像撮影・年輪計測,及び同一材推定の分析に加えて,同一材推定の成果を踏まえた木簡釈読の再検討と,荷札木簡を用いた年輪年代学的検討,また,各地収蔵木簡の調査を中心に進めた。平城宮・京跡から出土した参河三嶋由来の贄荷札の検討では,同一材と考えられる複数の組合せの木簡を見出すことに成功した。これらは,それぞれの組ごとに同一遺構から出土したものであり,また記載内容も類似しているものであった。このことは,それぞれ組となる贄荷札が製作された同時性の高さを示すものと考えられる。また,これまでに得られた成果を『埋蔵文化財ニュース』において「木簡の年輪年代学」と題した特集号として編集・出版するとともに,岩波書店から一般向けに出版された『木簡 古代からの便り』に本科研費研究課題の成果の一部を掲載した。
2: おおむね順調に進展している
研究3年目である2019年度は,前年度に引き続く年輪画像撮影・年輪計測,及び同一材推定の分析に加えて,同一材推定の成果を踏まえた木簡釈読の再検討と,荷札木簡を用いた年輪年代学的検討,また,各地収蔵木簡の調査を中心に進める計画であった。研究実績の概要であげたとおり,今年度は平城宮・京跡から出土した参河三嶋由来の贄荷札に同一材と考えられる組合せを複数見出すなどの成果をあげることができた。また,これまでに得られた成果を『埋蔵文化財ニュース』において「木簡の年輪年代学」と題した特集号として編集・出版するとともに,岩波書店から一般向けに出版された『木簡 古代からの便り』に本科研費研究課題における成果の一部を掲載するなど,成果の公表や社会還元も進めることができた。これらのことから,おおむね順調にに進展していると判断した。
研究最終年度となる2020年度は,これまでに引き続く年輪画像撮影・年輪計測,及び同一材推定の分析に加えて,同一材推定の成果を踏まえた木簡釈読の再検討と,研究期間を通してのまとめを中心に進める。1次データとなる年輪幅データの計測は,本研究課題の根幹となるものであり,本科研費にて導入した画像連結システムによる画像の取得を行う。また,年輪幅の計測は,緻密で労力が大きく,時間を要する作業であるが,木材組織に関するごく基礎的は知識を習得すれば作業自体は比較的容易であり,作業補助者を雇って年輪計測を進める。得られた年輪幅データをもとした年輪年代学的な同一材推定を踏まえ,これまでバラバラになってしまっていた木簡を接合し,1つ1つの文字としてしか捉えられなかったものを,単語や文章として捉え直していく。これまでに200点余りの検討を進めている平城第337次調査(平城宮第一次大極殿院跡)出土の削屑木簡について,年輪数が多く刻まれる柾目材のものに同一材関係が多数見出されつつあり,これについて接合の検討や釈読の再検討を進める。また,一連の削屑木簡については,1点1点は数十層の年輪しか刻まれていないものの,同一材推定をもとにした接合により100層を超える年輪曲線の構築が期待され,これまでに蓄積している標準年輪曲線とのクロスデーティングについても検討する。さらには,これまでにあげられた木簡の同一材推定の分析,それを踏まえた木簡釈読の再検討,荷札木簡を用いた年輪年代学的検討に関する成果を総合的に検討し,本科研費研究課題における研究成果のまとめを行う。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (19件) (うちオープンアクセス 10件、 査読あり 4件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 図書 (1件)
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