研究課題/領域番号 |
17H02441
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館 |
研究代表者 |
佐々木 史郎 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 国立アイヌ民族博物館設立準備室, 部長 (70178648)
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研究分担者 |
吉本 忍 国立民族学博物館, その他部局等, 名誉教授 (10124231)
齋藤 玲子 国立民族学博物館, 学術資源研究開発センター, 准教授 (20626303)
日高 真吾 国立民族学博物館, 人類基礎理論研究部, 教授 (40270772)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アイヌ / 衣文化 / 織物 / 糸紡ぎ / 平織 / もじり織 / 織機 / ブリヤート |
研究実績の概要 |
平成30年度では国内調査3件、海外調査5回、研究会を1回実施した。 まず国内調査では4月に若狭三方縄文博物館(福井県三方上中郡若狭町鳥浜)と福井県立若狭歴史博物館(福井県小浜市遠敷)において鳥浜貝塚遺跡の縄文時代前中期の繊維遺物のもじり織組織を観察した。また、5月に仙台市東北福祉大学芹沢銈介美術工芸館(宮城県仙台市)においてアイヌの樹皮衣、木綿衣、蝦夷錦を調査し、平成31年3月に国立民族学博物館(大阪府吹田市)においてアイヌの織機と織りかけの布等の調査を行った。 海外調査では、まず、サハリン州立郷土博物館(ロシア連邦サハリン州ユジノサハリンスク市)で、平成30年4月と31年1月の2回にわたってアイヌの魚皮衣、樹皮衣、草皮衣、木綿衣等とイラクサの糸作りの調査を行った。また、平成30年5月にはインドネシア共和国のバリ島トゥンガナン村においてシュロの繊維を使った糸紡ぎともじり織りによるスダレ製作の過程を調査した。さらに、8月にはザバイカル地方諸民族博物館(ロシア連邦ブリヤート共和国ウラン・ウデ市)とウラン・ウデ市内においてブリヤートの馬のたてがみの糸から織られた織物とたてがみの糸の紡ぎ方・織り方の調査を行い、同時にウラン・ウデ郊外のタルバガタイ村でロシア古儀式派教徒の伝統的な羊毛の糸紡ぎと麻布織りについての調査も実施した。10月にはロシア民族学博物館とロシア科学アカデミー人類学民族学博物館(両者ともロシア連邦サンクトペテルブルク市)において、古いアイヌの木綿衣、魚皮衣、獣皮衣などを調査した。 研究会は平成30年5月に国立民族学博物館において実施し、前年度の活動報告と当年度の活動計画を策定した。 最後に、前回の調査プロジェクト(基盤研究B「北方寒冷地域における織布技術と布の機能」)で積み残していた調査博物館のデータを整理したデータベースの最終調整を行い、協力館に配布した、
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度には当初より計画していた海外調査が比較的順調に実施できた。まず前回のプロジェクト(基盤研究B「北方寒冷地域にける書幅技術と布機能」)でも調査できていなかったサハリン州立郷土博物館(ロシア連邦サハリン州ユジノサハリンスク市)での調査を2回にわたって実施した。同博物館は南サハリン日本領時代(1905~45年)に設立された旧樺太庁博物館の建物を再利用しており、同博物館の収集資料が多数収蔵されている。またそれ以前のロシア領時代(1875~1905年)に収集された資料も若干含まれており、樺太アイヌを中心に古いアイヌ資料を多数収蔵している。今回の調査ではロシア領時代にB・ピウスツキが収集した資料をはじめ、日本領時代に収集された草皮衣、樹皮衣、魚皮衣、獣皮衣、木綿衣などを調査することができた。 アイヌのゴザや壁掛けなどに使われるもじり織り技術のルーツを探る研究では、前年度に引き続きインドネシアのバリ島において調査を実施した。今回は前年度とは異なる技法と道具を用いた織り方を観察し、またシュロ繊維との他、別の草皮繊維の糸の製作技法も観察できた。 アイヌ以外の北方系の民族の製糸、織布技術については、南シベリアのモンゴル系の民族であるブリヤートの技術を調査することができた。ザバイカル地方諸民族博物館(ロシア連邦ブリヤート共和国ウラン・ウデ市)が所蔵する19世紀末に製作された馬の毛の織物(長持ちカバーやテーブルクロス、椅子のクッションとして使用)を繊維の太さ、タテ糸の本数を含めて精密に観察するとともに、現代に残る馬のたてがみ糸の製作職人の許可を得て、その製作過程を動画に収めることができた。 平成30年度は研究分担者の健康問題が関係して、国内の博物館の調査で不十分なところがあったために、進捗状況を「おおむね順調に進展している」とした。その点は次年度の調査研究でカバーする方針である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、これまでの2年間の調査研究成果をまとめて報告書あるいは論文等の形で公表することを目標とする。また、それだけでなく、前回の研究プロジェクト(基盤研究B「北方寒冷地域における織布技術と布の機能」)の成果をも取り込んだ形での報告書としていく予定である。そのために以下の3点を重点的に実施する。 1)調査で得ることができたサンプルや映像の分析による素材・製作技法の同定。これまでの調査では衣類や繊維断片に対して、接写やデジタルマイクロスコープを使った精密な撮影を行っている。また一部の資料では繊維サンプルの提供も受けている。それらの画像やサンプルを詳しく分析し、既に同定されているデータと比較することで、素材と製作技法を解明していく。 2)国内外の博物館に収蔵されているアイヌ資料の補足調査。特に国内では青森市教育委員会と早稲田大学會津八一記念館、そして国立民族学博物館に収蔵されているアイヌの衣文化関連資料の多くがまだ未調査の状態にある。また、ロシア民族学博物館とロシア科学アカデミー人類学民族学博物館(両者ともロシア連邦サンクトペテルブルク市)にも未調査のアイヌ衣が残されている。これらの資料の調査を行うことによって、衣文化交流に関する知見で未だ不十分な点を埋めていく。 3)アイヌ民族以外の北方系民族の独自の製糸、織布技術の解明と復元。前年度調査したブリヤートをはじめ北方系民族では、独自の製糸、織布技術は既に100年ほど前に衰退している。馬のたてがみの糸のように保持されている技術もあるが、織布技術も織機も失われて久しい。しかし、地元ではそれを復活しようとする動きもあり、その際にアイヌ民族の経験が生きると考えられる。調査研究成果を調査対象とする社会に還元することもこのプロジェクトの目的の一つである。
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