研究課題/領域番号 |
17H02471
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
小塚 荘一郎 学習院大学, 法学部, 教授 (30242085)
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研究分担者 |
松中 学 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (20518039)
梅村 悠 上智大学, 法学部, 教授 (50439329)
胥 鵬 法政大学, 経済学部, 教授 (60247111)
松井 智予 上智大学, 法学研究科, 教授 (70313062)
大杉 謙一 中央大学, 法務研究科, 教授 (80233112)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | コーポレートガバナンス / 会社法 / ダイバーシティ(多様性) / サステナビリティ / 実証研究 / ESG / ESG投資 |
研究実績の概要 |
当年度は、以下の点に比重を置いて研究を進め、研究成果として掲げるような実績を得た。 まず、コーポレートガバナンスにおけるサステナビリティについては、前年度には労働者との関係に注目したことから、観点を変えて、環境面におけるサステナビリティに焦点を当てて研究を行った。梅村が気候変動リスクに関する研究論文を公表したほか、小塚が、これまでに研究してきた日本企業の地球環境サステナビリティに対する取り組みについて、国際研究集会で報告した。なお、その元となった平成29年度に行った学会報告を収録した書籍が、当年度内に公刊された。担当した部分は単著であるが、書籍全体が、寄稿者間の共同作業にもとづく国際共著と言ってよいものである。 また、コーポレートガバナンスにおける取締役会の機能については、大杉がガバナンス改革やグループガバナンスガイドラインの観点から、また松中が社外取締役の任用を含む日本のコーポレートガバナンスの変容という観点から、それぞれ分析を進め、成果を公表した。このうちグループガバナンスに関する研究は、社会的関係(労働関係など)や、地球環境にかかわるサステナビリティについて、コーポレートガバナンスといっても会社単体ではなく、サプライチェーンを含む企業活動の全般にわたってガバナンスを機能させることが要請されていることから、重要と考えたものである。 さらに、コーポレートガバナンスを、より大きな背景の中でとらえるために、胥が政策保有株式と企業価値の関係についての研究を行い、成果として公表した。サステナビリティ(ESG)に対する取り組みは、そうした問題意識を強く有する機関投資家から会社経営者に対するプレッシャーによって進んでいるという面も大きく、そのような株主の働きかけによるコーポレートガバナンス改革を阻害する要因として、政策保有株式に着目したものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コーポレートガバナンスにおけるサステナビリティという観点は、多様な問題にかかわるため、これまで、さまざまな角度から問題の検討を進めてきた。その結果、ダイバーシティ(平成29年度及び30年度の重点課題)、労働関係(平成30年度の重点課題)、そして地球環境のサステナビリティ(平成30年度及び31年度の重点課題)について、一定の知見を得られた。また、日本におけるコーポレートガバナンス改革の進展を法制度及び経済的な背景の両面から分析したことにより、その中における取締役会の役割についても明確になってきた。 ところが、当年度の年度末に至り、COVID-19の世界的な拡大と、それに伴う国際的な研究集会・学会などの相次ぐ中止という事態が発生した。小塚及び松中が、令和2年3月に参加を予定していたドイツにおける日本法セミナーも中止となり、当研究の成果をヨーロッパの専門家の前で提示し、比較法的な観点から示唆を受けることも不可能になってしまった。海外渡航の再開がいつになるかも見通しが立たず、また、いずれにせよほとんどの学会が、延期を決定してしまっている。このような中で、これまでに得られた知見を国際比較の中に位置づけ、また世界的に公表する機会をどのようにして確保していったらよいか、苦慮しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
上記のとおり、令和2年度は研究のまとめにあたる年度であり、これまでの知見を国際比較研究へと展開することと、研究成果を国際的に発表することを予定していたが、その見通しは、COVID-19拡大からの社会的活動の復帰が遅れる中で、きわめて不透明になっている。研究グループとしては、リモートツールなども活用しつつ、研究成果の取りまとめと成果公表に向けた努力を行いたいが、費用の使途などにおいて当初予定からの変更が生ずる可能性もある。 他方で、COVID-19の世界的な感染は、企業のあり方に大きな影響を及ぼしつつあり、企業が、公共的な「よいこと」に対して取り組まなければならないという意識は、短期間で世界的に広まった。感染者との接触アプリやワクチンの開発・供給、その中におけるプライバシーの保護や感染者に対する差別の防止、さらにはリモートワークの採用やオンラインツール・デジタルツールの活用などに関して、企業が、株主利益の追求を理由として無関心でいることは、もはや許されない。これは、コーポレートガバナンスにおけるサステナビリティという本研究の課題が、一気に現実の問題となったということでもある。そうした激変するコーポレートガバナンスの考え方をも、年度内に分析し、成果として公表できるように努めたい。
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