研究課題/領域番号 |
17H02487
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
池田 亮 東北大学, 国際文化研究科, 准教授 (60447589)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脱植民地化 / 冷戦 / 中東 / イギリス / フランス / アメリカ / アラブ・イスラエル紛争 |
研究実績の概要 |
2018年度は、国際共同研究加速基金により、ロンドンに滞在して研究活動を行なった。研究計画ではスエズ戦争に関するイギリス政府の開戦動機を分析することを主眼においたが、昨年度は主にスエズ戦争後の分析を行なった。従来、スエズ戦争に関する外交史研究は主に戦争までに焦点が当てられ、戦後いかにして紛争が解決されたかはほとんど議論されることがなかった。そしてイギリスは戦争の結果として中東での影響力を大きく後退させてしまった、というのが通説出あった。確かに一見すれば、スエズ運河再開に向けた交渉はイギリスの外交的敗北のように見える。 これに対して私は、主にイギリス公文書館の資料を用いて、イギリスがエジプトの一方的宣言を受け入れた理由は、ヨルダンやサウジアラビアなどのアラブ諸国の態度の変化にあると議論する。スエズ戦争までは親エジプトないしは反英的な姿勢を見せていたものの、戦後は大統領選挙を終えたアメリカがイギリスを支援する姿勢に傾いたこと、その結果サウジアラビアをエジプトから引き離し、ヨルダンへの経済援助を肩代わりする決定をした。また英仏イスラエルが占領したエジプト領と支配地域はすべて戦後に国連のUNEFが駐留することになり、これがエジプトの威信を大きく傷つけた。しかも、戦争の結果ヨルダンはチラン海峡通航の自由を獲得し、利益を得ることができた。このようにアメリカと国連の力を借りることにより、イギリスは戦後の中東における影響力維持に向けて軟着陸に成功したのだと言える。このような議論を、私は2018年8月にExeterで開かれたBIHG (British International History Group) の例会で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スエズ戦争後にいかに外交的決着が図られたかという点に関心を払って研究を進めたが、これはスエズ危機後も通説とは異なってイギリスが中東における影響力を残存させたという私の議論の核心に関わる点である。2018年度の間にこの研究を大幅に進めることができ、イギリスで開催された学会においてもフロアから好意的な評価を得た。また、アメリカの公文書館(NARA)やフランスの外務省資料館(MAE)でも資料調査を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
できるだけ早期に、スエズ戦争後の交渉過程に関する論文をまとめ、ジャーナルに投稿する。また、引き続き、英米仏三国の資料館を訪問して資料収集を行う。
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