研究課題/領域番号 |
17H02516
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
北川 章臣 東北大学, 経済学研究科, 教授 (60262127)
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研究分担者 |
柴田 章久 京都大学, 経済研究所, 教授 (00216003)
照山 博司 京都大学, 経済研究所, 教授 (30227532)
安井 大真 京都大学, 経済学研究科, 准教授 (30584560)
岡澤 亮介 大阪市立大学, 大学院経済学研究科, 准教授 (30707998)
太田 聰一 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (60262838)
木村 匡子 関西大学, 社会学部, 准教授 (90546730)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 人的資本 / 低成長 / 労働市場の流動化 / 所得・資産格差 / 正規・非正規格差 |
研究実績の概要 |
平成30年度の研究実績は次の通り。 理論面では、前年度に構築したコーポレート・ガバナンスと人的資本形成の関係を説明する理論モデルに必要な修正を加えた。このモデルからは政策含意として、ガバナンスのあり方によらず、企業特殊的な人的資本形成の機会を増やす雇用補助金は常に経済厚生の改善すること、および、企業の存続確率が極端に低くない限り、企業特殊的な人的資本形成の機会を与えられた労働者から与えられなかった労働者への所得再分配も経済厚生を改善するという結論が得られた。これとは別の論文で、少子高齢化の進展を受けて、これまで社会的に最適な人口成長率について理論的研究を進めてきたが、昨年度は数量的評価を行い、サミュエルソンの「最適」人口政策を実施した場合、実証的に妥当なパラメータ設定の下においても、意図に反して経済厚生が悪化する可能性があることを示した。さらに別の論文では、国際的分業の進展を踏まえた3国モデルを構築し、ある国の金融市場の発展が世界の所得格差を拡大する可能性があることを示した。これらとは別の論文で、死亡率の低下が物的資本主導の成長から人的資本主導の成長に転換させること、成長段階によって死亡率の低下が一人当たり所得に与える影響が異なることも示した。 実証面では、企業金融と人的資本形成の関係について、企業パネルデータを利用して、人的資本(正規労働者)、物的資本(設備)、研究開発資本に関する投資関数をオイラー方程式の観点から推定し、人的資本、研究開発、物的資本の順に優先的に資金を割り当てていること、また、このような資金の優先順位はリーマンショックのような大きな景気後退期にも変わらないという示唆を得た。この研究は、現在、論文としてとりまとめをおこなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由 判断理由は以下の通り。 1) 実証班は、人的資本(正規労働者)、物的資本(設備)、研究開発資本に関する投資関数を推定し、企業は人的資本、研究開発、物的資本の間でどのような順位で資金を割り当てているか、および、こうした優先順位は景気後退期にも変わらないという事実を明らかにした。また、非正規労働者の増加要因を分析した論文と世代間稼得所得格差の原因を分析した論文がJapan and World Economyに掲載された。 2) 理論班は、コーポレート・ガバナンスと人的資本形成の関係を説明するモデルが一応の完成を見たことに加え、サミュエルソンの「最適」人口政策を実施した場合、実証的に妥当なパラメータ設定の下においても、意図に反して経済厚生が悪化する可能性があることを示した論文がJournal of Demographic Economicsに、ある国の金融市場の発展が世界の所得格差を拡大する可能性があることを示した論文がInternational Review of Economics & Financeに、死亡率の低下が物的・人的資本蓄積に与える影響を分析した論文がReview of Economic Dynamicsに掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
実証班は、厚生労働省「賃金構造基本調査」の個票データ(約77,000 事業所、労働者約157万人)によって、正規・非正規別の賃金とその分布の特性を分析する。そのために同調査票情報の利用申請を行う。既に実施したリクルートワークスの労働者パネル調査による分析と比較し、そこで確認された賃金関数の特性について、より大規模なデータで確認できるか検証する。パネル調査と比較すると「賃金構造基本調査」の労働者の情報は大幅に減少するため、分析対象となる事項は限定される。しかし、政府による大規模調査であり、長期間にわたりデータが得られる点で利点がある。たとえば、賃金関数を雇用形態の選択行動と同時に推定することができる。また、正規雇用者については、賃金関数を長期的に比較し、年功賃金の勾配の変化、賃金格差などについて、1990 年代以前から追跡して調査できる。これによって、バブル崩壊の前後で人的資本形成のあり方の変化が生じたか否か、それが賃金分布に影響を与えたか否かに関する示唆を得ることを考える。 理論班は、実証班の結果を踏まえ、理論モデルに修正を加え、モデルを最終的に完成させる。さらに、国際間の知識・技術の波及効果に着目し、人的・知識資本の形成過程に海外要因がどのように影 響を及ぼすのかを理論・実証の両面から分析する。2019年度は基本モデルの構築と簡単な推定を行う。 理論・実証研究とも一応の結論が出た段階で得られた結果を持ち寄り、コア・メンバー全員で研究結果をどのようにまとめるかを打ち合わせる。
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