研究課題/領域番号 |
17H02523
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
鎌田 伊佐生 神戸大学, 経済学研究科, 准教授 (40749503)
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研究分担者 |
佐藤 仁志 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 研究企画部, 海外研究員 (60466076)
神事 直人 京都大学, 経済学研究科, 教授 (60345452)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 経済政策 / 国際経済学 / 国際貿易 / 貿易協定 / 貿易と労働 / 労働条項 / 労働条件 / 最低賃金 |
研究実績の概要 |
本研究は貿易協定における労働条項の協定締約国における労働基準・労働条件の維持・改善効果ならびに貿易協定に期待される貿易促進効果への影響の有無について理論および実証の両面から経済学的分析を行うことを目的として実施されている。 研究の初年度となる平成29年度においては、まず実証分析について、研究代表者であるわたしは、自身が漸次整備を進めている地域貿易協定の労働条項に関するデータベースとともに当年度中に100か国超について入手・整備することができた各国の法定最低賃金とその時系列変化に関するデータを中心に用いつつ、労働条項の協定締約国内労働基準・労働条件への効果に関する計量経済学的分析の予備的分析を実施することができた。同分析においては従来の研究では指摘されてこなかった労働条項の効果を示唆する興味深い結果が得られたことを特記しておきたい。また、同予備的分析とその結果について3件の国際学会を含む5つの学会・研究会で報告するとともに、これらを通じて内外の研究者から分析手法等に関して今後の改善に繋がる有益なフィードバックを得ることができた。さらに、同分析とその結果についての論文執筆も行うことができたが、これについては次年度半ば頃までに本研究の研究分担者が所属する研究機関のディスカッションペーパーとして発表される予定である。 また、本研究の理論分析に関しては、2名の研究分担者とともに貿易協定とその交渉における労働条項の意義と影響に関する政治経済学的モデル構築のための先行研究調査に着手することができた。同調査の当年度時点での成果については、研究分担者である佐藤がシンガポールの研究機関におけるセミナー報告として発表することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画において当年度の重点項目とした貿易協定の労働条項の協定締約国における国内労働基準・労働条件に対する効果に関するマクロレベル・データを用いた計量経済学による予備的実証分析について、100超の国について法定最低賃金とその時系列変化のデータを入手・整備し分析に用いることができたと同時に、計画初年度の予備的分析の段階で本研究の意義を強く裏づける結果を得ることができた。また同分析の国内および国際学会での発表・報告を通じて内外の研究者の意見や助言を得られたことで、分析の現状における課題と今後の改善および進展の具体的方向性について明確にすることができた。 また理論分析の面については、(ア)労働条項と貿易制裁の厚生効果に関する分析および(イ)労働条項の貿易協定とその交渉に対する影響の政治経済学的分析の2側面からの分析を目指しているところ、当初計画での重点が(ア)であったのに対し実績では(イ)からの着手となった違いはあるものの、研究分担者とともに理論モデルの構築を目指した先行研究調査に着手することができた。 なお、理論モデル構築のための知見を得るためこの分野の第一線の研究者と意見交換すべく平成30年1月にアメリカ経済学会に参加したが、会期中の寒波による交通混乱により出席予定者の欠席が相次ぎ、予定していた主要な面談のいくつかは果たせなかった。しかしながらそのかわり、同学会にて国際労働機関(ILO)のスタッフから同機関がごく最近まとめた貿易・投資協定と労働条項についての報告書を入手するとともに、同報告に携わったILO研究者に我々の研究を紹介し今後の意見交換を図りたい旨伝え、先方の主たる研究者のコンタクト情報を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の理論分析については、労働条項と貿易制裁の厚生効果に関する分析および労働条項の貿易協定とその交渉に対する影響の政治経済学的分析のそれぞれについて、引き続き関連する先行研究の調査をより焦点を絞りつつ進めるとともに理論モデル構築を試みていく。これについては研究代表者と2名の研究分担者それぞれとのチームでの取組みとなるところ、代表者・分担者間の連携・共働をより密にすべく研究会やミーティングをより頻繁に開いていきたい。但し平成30年度には3者の拠点が互いに遠隔地となるため(1名は海外)、必要に応じてインターネットを通じた電話会議やビデオ会議の方法も用いていきたい。 本研究の実証分析については、まず、当年度中の予備的分析とその結果の学会等報告を通じて得られたフィードバックを踏まえつつ、労働条項の法定最低賃金および労働者保護規制への効果についての計量経済学的分析の改善や精緻化を試みる。また、データが入手可能であれば、これら以外の労働基準・労働条件に関する影響についても分析を行っていきたい。加えて、労働条項が貿易協定の貿易自由化・促進効果を減じていないかについての検証へと分析の拡張を試みるが、これには当年度に入手(アクセス権を購入)した国連貿易統計、UNIDO工業統計の2つのオンラインデータベースを活用する。 また、本研究の実証分析では労働条項の機能と効果のメカニズムに関するケーススタディ分析も計画しているが、分析対象となり得る貿易協定の選定のための情報収集ならびに上記の計量経済学的分析の拡張に必要となる労働条項データベースの更新や労働基準に関する追加的データの探索・入手は、労働集約的な作業とならざるを得ない。そこで、これらの作業については、研究代表者または研究分担者の所属機関においてリサーチ・アシスタントの雇用を検討していきたい。
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