研究課題
経済危機、自然災害、家族の就業困難の他、高齢化対応、地域の衰退や学校教育の向上など、多様な危機に対する望ましい対応策について労働経済学の観点から実証分析した。これまで日本の経済成長を実現した競争力の源泉として、職場における技術変化や突発的事象に対する異常と変化への対応」を可能とする知的熟練の重要性が指摘されてきた。今回の研究では、企業内のみならず、自然災害に対する防災・免災を最大限可能にするものとして、即応的実践を意味する「ブリコラージュ」の現在的再評価を得るに至った。あわせて複合的な危機への対応についてはブリコラージュと計画的実践であるエンジニアリングの適切な組み合わせの重要性も指摘した。政策的含意として、職場内部での異常と変化の対応に加えて、地域コミュティにおける緩やかな連携のなかでブリコラージュの形成を促進するほか、行政におけるエンジニアリング的政策に適宜、住民主体のブリコラージュを取り入れていくことの必要性なども示唆された。また研究では、危機に直面した際に機能する社会資本の特性について、労働経済の観点からの多角的な解明を行った。現代における労働の危機は、職場内に限定されず、家庭内にもさまざまな課題を抱えている。その根幹にあるのは、社会的な孤立がもたらす就業機会の抑制であり、さらには就業機会を失うことが孤立をさらに深刻化させる負のスパイラルである。この問題について「孤立無業者」という新たな概念を構築し、政府統計の特別集計による実態把握を行い、さらには英文書籍によって海外に広く発信を行った。加えて労働相談などから近年の最大の職場の危機とも考えられるパワーハラスメントの背景には長期的な視野や関係性が多くの職場で喪失しつつある事実が影響していた。これらの指摘は、新型コロナウィルス感染拡大後の労働市場のあり方にも一定の示唆を与えるものとなっている。
令和元年度が最終年度であるため、記入しない。
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