研究実績の概要 |
本年度は第一の研究成果として, 平成29年度より継続している2カ国開放経済ニューケインジアンモデルを用いた,トレンド・インフレの実質為替レートおよび名目為替レート効果に関する理論分析を論文にまとめ, 国際学会および大学で報告したことがあげられる. 多くの研究者からのコメントを反映し論文の改訂を繰り返し, 現在国際的な学術専門雑誌に投稿中である. 本年度の第二の研究成果として, 平成29年度から実施している沖縄本土返還前後における沖縄・那覇市と本土県庁所在都市での小売物価統計調査の個別商品銘柄の小売価格データを用いた, 通貨体制変化の実質為替レート調整効果に関する自然実験の共同プロジェクトがあげられる. 本プロジェクトの中間報告としての邦語論文が日本経済学会編纂の論文集に採択・出版された. 本年度はさらなるデータの拡張を試みた. 特に専門業者を雇用しデータ打ち込み作業を進め, その膨大なデータの清掃・整理作業を現在も継続している. また本年度は国際学会と大学で研究報告の機会を得た. 特に国際学会では当該分野で世界的に著名な幾人かの研究者から重要なコメントを得た. また一橋大学政策フォーラムにて本研究の成果を一般的聴衆に対し紹介し, 科研費研究成果の一部を社会的に還元することができたことは特筆できるだろう. 本年度の第三の研究成果として, 非線形確率的動学的マクロモデルの新しいベイズ推定法の開発を試みた. Geweke(2010)が提起した「最小解釈」に, 離散分布であるディリクレ・多項モデルを応用し, モデルの構造パラメータの事後分布のベイズ改訂を行う. その最大の利点は実装が非常に簡便な点である. 今後, 本研究課題の研究計画の一つである, 再帰効用に依拠する長期リスクがある為替レートのマクロモデルの強力な実証手段となり得る萌芽的成果である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トレンドインフレの為替レート変動に与える影響に関する第一プロジェクトは、本年度研究成果を論文としてまとめ、いくつか代表的な国際学会(カナダ経済学会, European Meetings of Econometric Society, EcoMod2018)で研究成果の報告を行った. 多くのコメントを反映して論文の改訂を繰り返し, 現在国際的学術論文雑誌に投稿中である. 次に沖縄返還に関連する実質為替レート調整における通貨体制の影響に関する第二プロジェクトも、研究成果の一部が中間報告として 平成30年度日本経済学会の機関紙「現代経済学の潮流2018」に掲載された. また本年度は海外の国際学会(1st Australasian Conference of International Macroeconomics)でも研究成果を報告できた. このような日本の貴重な歴史的経験を用いた実証分析が海外研究者の注目を集め始めていることは、本研究が日本の地域分析にとどまらず, 世界的な普遍性を持つことを端的に示している. 本年度は「長期リスク」の動学的一般均衡分析を通じた為替レート分析の第三プロジェクトにおいて、新しい進捗が見られた. 非線形確率的動学的マクロモデルの新しいベイズ推定法として, Geweke(2010)が提起した「最小解釈」に、離散分布であるディリクレ・多項モデルを適用し, モデルの構造パラメータの事後分布のベイズ改訂法の開発を試みた.
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今後の研究の推進方策 |
第一プロジェクトに関しては, 現在論文を国際的な学術専門雑誌に投稿している. 今後の方向性としては、(1) 2カ国間消費差と実質為替レートの相関に関する実証的パズル(いわゆるBackus-Smith puzzle)と(2) カバーなし金利平価式に関する実証的パズルを解決するようモデルのさらなる拡張と改善を試みる. 第二プロジェクトに関してはデータ整備を完了し、拡張されたデータ・セットで改めて実証分析を行う。令和元年にはカナダ経済学会、Econometrics Society North American Summer MeetingsおよびEuropean Meetingsでの学会発表に採択されている.またさらに関連したデータを用いて, ニュージーランドのMassey UniversityのMartin Berka教授と共同研究を行う予定である. この共同研究では, 実質為替レートの文献における重要な実証的パズルである消費差と実質為替レート間のBackus and Smith puzzleに沖縄返還前後のデータを用いて接近する. 第三プロジェクトに関しては、前述の「最小解釈」に基づいた新しいベイズ推定法の確立に挑む.その後再帰効用に依拠する長期リスクがある為替レートのマクロモデルの推定に実装する.
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