研究課題/領域番号 |
17H02542
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
加納 隆 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (90456179)
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研究分担者 |
加納 和子 (竹田和子) 早稲田大学, 商学学術院, 准教授 (20613730)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 実質・名目為替レート / トレンド・インフレ / 沖縄返還 / ベイズ統計 / 価格硬直性 / メニューコストモデル |
研究実績の概要 |
令和2年度は第一の研究成果として, 名目為替レートのランダムウォーク性に関する動学的一般均衡分析の論文が, マクロ経済学における国際的なトップジャーナルの一つであるJournal of Money, Credit, and Bankingに掲載されたことが挙げられる.
次に平成29年度より継続している2カ国開放経済ニューケインジアンモデルを用いたトレンドインフレの実質為替レートおよび名目為替レート効果に関するプロジェクトにおいては, 2カ国の非対称性を認めモデルを大幅に拡張した. この修正モデルをブレトンウッズ体制崩壊以後のカナダと米国の時系列データを用いてベイズ推定した. 令和2年度の第二の研究成果として, その結果をまとめ現在国際的なジャーナルに投稿している.
令和2年度の第三の研究成果として, 平成29年度から実施している沖縄本土返還前後における沖縄・那覇市と本土県庁所在都市での小売物価統計調査の個別商品銘柄の小売価格データを用いた, 通貨体制変化の実質為替レート調整効果に関する自然実験の共同プロジェクトの進捗が挙げられる. 令和2年度は分析の対象を, 本土と沖縄間の個別商品別実質為替レートだけでなく, それぞれの地域における個別商品銘柄価格の改定頻度および改定幅に拡張した. その上で本土と沖縄に輸出する独占的競争企業のメニューコストモデルとカルボモデルを構築し, 自然実験の結果をどのモデルがより良く説明できるかカリブレーション分析を現在実施している. この分析により, 価格硬直性の代表的な経済モデルとしての両モデルの実証的検証が期待できる. 特に実質為替レートのミクロデータを用いたメニューコストモデルの実証分析は世界的にも存在しないため, 国際金融論における重要な貢献になる可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度は新型コロナ感染症の世界的な流行により, 本研究計画も大きな影響を受けた. まず計画していた海外大学での報告と共同研究の実施がすべてキャンセルになってしまった. また授業のオンライン化の要請により, 授業準備に想定外の多大な時間を費やさざるを得なくなった. これらのことは本研究計画の進捗状況に甚大な影響を与えた.
そのような未曾有の状況においても, 第一と第二プロジェクトの進捗はあった. 労力と時間が極めてかかったが, トレンドインフレがある2カ国開放経済ニューケインジアンモデルを非対称性を認めて拡張しベイズ推定した. 推定しなければならないパラメータ数が40以上になったため, 急遽予算の組み替えを行いハイスペックPCを購入し, マルコフチェーンモンテカルロ法の分析可能な時間内で実装可能とした. また沖縄返還に関連する実質為替レート調整における通貨体制の影響に関する第二プロジェクトでも, ほぼ予定の通りメニューコストモデルとカルボモデルを構築し, 現在カリブレーション分析を行っている.
残念ながら「長期リスク」の動学的一般均衡モデルを通じた為替レート分析に関する第三プロジェクトが時間的制約でほぼ進捗できなかった.
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今後の研究の推進方策 |
第一プロジェクトに関して今後の方向性としては, (1)2カ国間消費差と実質為替レートの相関に関する実証的パズル(いわゆるBackus-Smith puzzle)と(2)カバーなし金利平価式に関する実証的パズルを解決するようモデルのさらなる拡張と改善を試みる. また(3)トレンドインフレを認めた2カ国ニューケインジアンモデルにおける最適金融政策へのインプリケーションの導出も今後の重要な方向性である. 閉鎖経済モデルにおいてトレンドインフレの存在は最適金融政策を大きく変容させることがすでに知られている . 開放経済においてそのような最適金融政策のインプリケーションがどのように変化するのか, 未だ明らかではない. 第二プロジェクトに関しては, 現在進行中のメニューコストモデルとカルボモデルのカリブレーション分析を完成させ, 全体の成果を論文としてまとめ国際的ジャーナルに投稿する. これにより自然実験で得られた実証結果を用いて, メニューコストモデルとカルボモデルのデータ整合性を確認し, 実質為替レート変動における価格硬直性の役割を重視するニューケインジアンモデルのマイクロデータを用いた精緻化に貢献する. また開放経済のメニューコストモデルにおける経済厚生分析も今度の重要な方向性として挙げられる. 令和2年度に進捗が著しく停滞した第三プロジェクトに関しては, Geweke(2010)の 「最小解釈」にディレクレ・多項モデルを適用し, 代表的な非線形動学的確率的一般均衡モデルである消費に基づく資産価格モデルの構造パラメータのベイズ推定プログラムを引き続き進捗させる. この「最小解釈」に基づいた非線形動学的確率的一般均衡モデルの新しいベイズ推定法の頑健化を試みる.さらにモデルに特定化の誤りがある場合のベイズ統計的同定方法の確立も目指す.その後再帰効用に依拠する長期リスクがある為替レートのマクロモデルの推定に実装する.
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