2018年度に行った調査が現経営者の心理的特性と事業承継プロセスについて、現経営者に対する質問票調査であったのに対し、本年度は、中小企業の現経営者と承継候補者の両方に質問票を送る調査を行った。この調査には、まず、現経営者と承継候補者とが、心理学でよく用いられるビッグ5(外向性、協調性、勤勉性、神経症傾向、開放性)やナルシシズムといった心理的特性について、一致している(異なる)程度が、事業承継にいかなる影響を及ぼすかを分析するための質問項目が含められた。また、リーダーとフォロワーの交換理論にのっとり、現経営者と後継候補者との間の関係性が、事業承継に対してどのような影響を及ぼすかについての質問も加えた。 今回は、首都圏・近畿圏の中小企業に対して質問票調査を行った。2019年度の予算を用いて東海地方および長野県の中小企業に対して行った調査と併せ、対象企業は17300社であり、1584社の現経営者から回答があった。その回答で承継候補者とされた500名に調査を行い、現経営者と承継候補者の両方から有効な回答があったのは、235社であった。 また、中小企業ではないが、何社かの同族企業に対して、事業承継についてのインタビュー調査を行った。その結果、事業承継は、承継者が新しい視点、戦略を持ち込み、企業変革を行う良い機会であることが観察された。ただし、企業変革を達成するためには、自社の強みや価値を再確認し、旧世代と建設的な議論をしないと、旧世代から変革に対する強い抵抗が生じ、変革や承継がうまくいかなくなることが観察された。
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