本研究は「のれん」の「規則的償却+減損」vs.「非償却減損」を巡る長期にわたる国際的な論争(以後「償却 vs.減損論争」と略する)の意味を多面的に分析し、論争の解決への貢献を目指すものである。意見の対立を引き起こしているのは(1)のれんの現状の相違(のれんと考えられているものの法域等による相違)及びのれんに関する事実認識の相違(例えばのれんの減価についての認識)、並びに(2)のれんの会計処理を巡る規範の相違である。1年目には、主に上記の(2)に関係した規範的な論争(のれんの償却を支持する論理と否定する論理)について整理を行った。また、2年目の前半では(1)(2)に関連して、のれんの償却に対して強い反対を表明しているフランスの会計基準設定主体、公認会計士協会及び代表的企業に訪問面接調査を行った。2年目の後半から日本の作成者と利用者に対する質問票調査を計画・実施した。その成果は京都大学経済学研究科のディスカッションペーパー(J-18-004)として公表した。本年度はこの質問票調査の結果と関連して、どのような属性(または動機)を有する作成者が「減損処理のみ(非償却)」の方が望ましい(または望ましくない)と考えているのかについて当該回答と採用している会計基準及びのれんの規模との関係について、追加的なクロス分析も実施した。前者に関しては、日本基準を採用している企業に比べて米国基準やIFRSを採用している企業の方が「減損処理のみ(非償却)」が望ましいと回答していることが観察された(ただし、ロジット回帰では統計的に有意でない)。また後者に関しても、のれん総資産比率が高い企業群では「減損処理のみ(非償却)」を指示する回答割合が高くなっていることが明らかとなった(こちらのロジット回帰の結果は統計的に有意)。この結果の頑健性を高めるために今後さらに多くの要因を考慮に入れた分析を行う予定である。
|