本研究の目的は、神経症傾向の適応価が行動調整傾向の強弱に応じて変動するかを検討することである。負の情報へ行動調整傾向とは、負の情報への敏感性を促す性格特性で、疾病・精神疾患などの不適応症状の予測因子であるとされる。一方で神経症傾向は、さまざまな危険・脅威を効率的に検知することを可能にする。従って、自らの行動を柔軟に調整し周囲に合わせる傾向が求められる相互協調的な文化においては、神経症傾向は適応的になり得るであろう。適応の指標としては、脳誘発電位を用いて測定する感情制御能力を用いる。参加者は、脳波計を装着し、実験室で脳波を用いた感情制御の課題を遂行した。「注意条件」では、不快な画像刺激をみて、自然に生じる感情反応に注意を払うように教示した。「抑制条件」では不快な画像を見て自然に生じる感情反応を「抑え、隠すよう」に教示した(被験者内要因)。最後に神経症傾向などを調査する質問紙に回答した。 当該年度には過去2年度に実施された脳波測定(64チャンネル脳波計;BIOSEMI Active Two Systemを用い、測定時DC~1.6KHzの周波数帯域を増幅記録したもの)ならびに心拍データとの関わりの解析を実施した。結果は北米でアジア人を対象に実施された結果を追試するものとなった。つまり、抑制条件では不快刺激においてもニュートラル刺激と同様の脳波の反応が得られ、日本人参加者においてネガティブな感情制御ができていることが示された。
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