研究実績の概要 |
人の話す言語は,その人がどのような社会集団(出身地,国など)に属するかを知る手がかりとなる。これまでの研究でも,乳児や幼児が既に,自分がふだん聞きなれたネイティブアクセントの話者を外国語なまりの話者より好み(Kinzler et al., 2007, 2009),第三者どうしの関係を予測するさいにも,同じ言語を話す者どうしは友好的であるが,異なる言語の話者どうしは敵対的であると見なしていること(Liberman et al., 2017)が見いだされている。 本年度の研究では,Libermanら(2017)の知見を踏まえ,異なる方言話者どうしの関係を乳児はどのようにみているかを検討した。具体的には,東京在住の(標準語環境で育つ)10~12か月児を対象として,彼らが,標準語話者と京都方言話者の関係を,標準語話者どうしの関係より敵対的なものをみなしているかを検討した。結果として,東京の乳児たちは,異なる方言の話者どうしの関係を,標準語話者どうしの関係と異なるものとは見なしていないことが示された。 Libermanら(2017)が検討したのは,リズムや音になじみがあり少なくとも部分的には理解可能な言語を話す人と,リズムも聞きなれないなら単語もわからない言語(外国語)を話す人との関係を,乳児がどうみなすかということであった。それに対して,本研究が問題にしたのは,同じ言語の中の異なる方言を話す人どうしの関係を乳児がどうみているかであって,取り上げられた“異なる方言”は,互いに理解不能なほど“違う”ものではなかった。したがって,本研究の結果は,そのようなマイルドな言語の違いは必ずしも乳児に話者どうしの分断を予想させるものでないということを示唆していると考えられる。
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