研究課題/領域番号 |
17H02646
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研究機関 | 武蔵野大学 |
研究代表者 |
小西 聖子 武蔵野大学, 人間科学部, 教授 (30251557)
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研究分担者 |
岩井 圭司 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 教授 (20263387)
中島 聡美 武蔵野大学, 人間科学部, 教授 (20285753)
柑本 美和 東海大学, 法学部, 教授 (30365689)
岡田 幸之 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (40282769)
堀越 勝 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 認知行動療法センター, センター長 (60344850)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 性暴力被害 / PTSD / 急性期 / 認知行動療法 / 心理教育 / 性犯罪被害者の精神鑑定 / 性犯罪被害者の抵抗 / 性犯罪被害者の行動 |
研究実績の概要 |
本研究は、性暴力被害者に対して被害後急性期から回復期に向けて一貫した支援を提供するモデルを構築することを目的としている。2019年度は大きく下記2点について研究を行った。 1) 2016年12月~2018年11月に、性暴力被害後に精神科を受診した19名にSARA(スマートフォン上で操作する性暴力被害者を対象とした急性期支援プログラム)を実施し、今年度は、その実施前後の心理検査結果、中断率、実施後の満足度の数値化、分析を行った。その結果をInternational Society for Traumatic Stress Studies(@Boston,2019年11月)にて発表した。また今後は研究対象がより広範になることを考慮して、研究代表者の声を使っていた心理教育の音声部分をプロのナレーターによる説明に変更し、新しいSARAプログラムを作成した。 2) 被害者の精神鑑定ガイドラインの策定にあたり、研究代表者がこれまでに実施した刑事訴訟に関わる被害者鑑定の自験例および2018年度に実施した東京地方検察庁管内の刑事訴訟過程で被害者の精神鑑定が行われた事例に関する調査から得られた被害者の被害時の行動や反応に関する逐語データの分析を実施した。分析対象となった事例は3例であった。調査の結果から、被害者の明確な身体的・物理的抵抗は見られにくいこと、加害者の攻撃度が高まるにつれ、言語的抵抗の程度が強まり、複数の抵抗戦略が用いられるようになること等が見出された。また「性器の挿入」を起点に、恐怖のピークが生じ、離人感、健忘などの解離反応が見られていた。 被害者の精神鑑定ガイドライン策定に向け、専門家による検討会議を全2回開催した。性犯罪被害者の精神鑑定事例の報告、現状の精神鑑定の問題点に関する意見交換を行い、ガイドラインの構成・内容について具体的な検討を行った
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
SARAプログラムについては、心理教育普及のためのツールとしては、準備が終わった。ただし、研究代表者が関わった別の研究、厚生労働省2019年度障害者総合福祉推進事業「犯罪被害等によるストレス性障害に対する対応状況及び多職種・地域連携に関する実態調査」において、全国の被害者支援と連携したPTSD治療の普及状況は筆者らが想定していたより、さらに進んでいないことがわかったため、ごく一部の地域を除いては、そのまま提供することが困難であることが明らかとなった。このため研究に遅れが出ている。 精神鑑定のガイドライン策定では、研究代表者らの自験例以外に、調査できる数は非常に少なかった。しかし社会的には、関心を集める領域となっており、本年3月から4月には、性的虐待や性犯罪被害者の無罪判決が問題となり、研究代表者らは、その鑑定にもかかわり、貴重な知見を得た。検討会議を経て自験例は貴重であるが、それ以外の検証できる対象が少ないことから、標本を用いた量的実証的な研究は不可能であり、貴重な鑑定例を分析し、ガイドラインの前段階として、法律、精神医学、心理学の専門家に対する問題の提起、解説を行う書籍を発行することが必要であるとの結論に達した。当初の目標であったエキスパートコンセンサスによるガイドライン策定が困難なほど、扱える対象が少なく、エキスパートも少ないことが、現実的に見えてきたため、やや遅れていると評価せざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度が最終年度であるため、SARAの普及、効果検証を目指す。ただcovid-19感染拡大による影響で心理臨床が行えない状況もあり、どの程度の実施が可能か、想定できない。さらに、被害者支援と連携できるPTSDに関する治療技術がほとんど普及していないという現状が明確になったことから、1年ではできないが、ネットによる遠隔治療の事例を積み重ね、その実現可能性を検証する方向が必要となってきたと考える。幸いPEやCPTなどのPTSDに関する認知行動療法は、遠隔治療が海外で試みられており、知見の蓄積もあることから、実現の助けになると考えられる。 また性犯罪被害者の精神鑑定については、本研究の研究者らの取り組みが大変貴重なものであることが分かったため、これを書籍として出版し、学際的領域の課題を明らかにする目標を達成する。さらに2020年度は性犯罪に関する刑法改正が再び行われる可能性があり、特に犯罪の構成要件として被害者の抵抗や行動が検討される可能性がある。被害時の被害者の抵抗や行動など、日本では実証的にはほとんど調査されていない領域のデータが重要となってくる。研究班の調査は、直接このような期待に応えるものであり、現在蓄積できた知見を発表していく必要がある。
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