研究課題/領域番号 |
17H02652
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
伊東 裕司 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (70151545)
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研究分担者 |
厳島 行雄 日本大学, 文理学部, 教授 (20147698)
指宿 信 成城大学, 法学部, 教授 (70211753)
吉井 匡 香川大学, 法学部, 准教授 (20581507)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 実験系心理学 / 刑事法学 / 確証バイアス / 司法的判断 / 批判的思考 / メタ記憶 |
研究実績の概要 |
法学的検討、調査研究、実験研究を行なった。法学的検討としては、裁判所の面前でなされた直接的侮辱行為に対し、それを現認した裁判官が簡易かつ即決に制裁を科すこと(=直接侮辱に対する簡易即決制裁)は、事実認定者に確証バイアスを招来させる可能性が大きい。この観点から、直接侮辱に対する簡易即決制裁について、我が国の現状を英国や欧州人権裁判所の現状と対比させつつ検討を行った。 調査研究としては、取調べの録音録画映像(記録媒体)を再生することが裁判官や裁判員といった事実認定者にバイアスを持たせ、事実認定を不当に歪めてしまうという問題(カメラ・パースペクティブ・バイアス:CPB)並びに、検察側から提示される証拠が部分的なものに止まることで事件の評価に偏った印象が生まれ誤判が発生するという問題(証拠開示問題)について検討を行なった。 実験研究は以下の4つを行なった。(1)目撃供述の正確さを規定する要因として目撃者のメタ記憶をポジティブ、ネガティブに実験的に操作したところ、事前のポジティブなメタ記憶操作によって記憶の確信度がネガティブな操作よりも上昇することが認められた。(2)刑事事件においては容疑者のアリバイの存在が大きな意味を持つが、アリバイの正確な想起は困難であることが知られている。そこでアリバイ想起の手がかり効果について実験的に比較したところ、シンプルなカレンダーの提示が正確なアリバイ想起に繋がることが示された。(3)模擬裁判員実験において、裁判官による争点の説明で有罪あるいは無罪を示唆することが、仮説の生成、証拠評価、有罪無罪判断に及ぼす効果を検討したが、有意な効果は見られなかった。(4)同様の模擬裁判員実験で、中間評議における他の裁判員の有罪あるいは無罪よりの意見に触れることは、同様の指標に対し有意な効果を持ち、バイアスを生じさせ事実認定に影響を与えることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
それぞれのメンバーが確実に研究を進めており、一定の成果をあげている。問題の整理に関しては、各メンバーで行うとともに、認知心理学会でシンポジウムを行うなどもしている。実証研究についても、すでに1つの調査研究と4つの実験を終えており、学会で報告したものもあり、2018年度の報告に向けての準備も進んでいる。そのほかの成果についても、それぞれが学会で報告したり、論文の執筆を行なったりなどしている。初年度の研究では、それぞれのメンバーが独自に研究を推進し、成果をあげている段階で、研究相互の関連付けを行い、それらの動きを総合する活動に関してはまだ十分ではないが、この点については今後の2年間で進めていくことができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度と同様に、それぞれのメンバーにおいて研究を推進していくが、2018年度以降はより研究者間の連携を重視し、それぞれの研究の関連付けに重点を置くとともに研究をまとめ上げる方向の議論を進める。また一部の研究においては、主要なテーマである確証バイアスとの関係が見えにくいところがあったが、今後はより明確な関連が示せるような研究計画を策定している。特に、研究相互の関連付け、総合のために、本年度は複数回の研究ミーティングを行う、学会などにおいてシンポジウムを企画するなどに力を入れる予定である。 研究の重点としては、確証バイアス、認知バイアスの生起については、目撃者、裁判官、裁判員などにおいて確認されているので、さらにこれらにおける生起条件などの詳細な検討を続けとともに、さらにバイアスが生じそうな状況をピックアップして、事例研究的、および実験的にバイアスの生起とその影響を示していく。また、バイアスから逃れるための方策につながる実験研究や議論にも徐々に力を入れていきたい。 また、CPB問題など、欧米圏よりもむしろ韓国や日本などアジア圏で研究や議論が進んでいる部分もあり、海外学会での報告を行うなど、研究水準を世界に示すことを予定している。国内においても、2017年度以上に、心理学、および法律学研究者はもちろんのこと、裁判実務家、捜査実務家などに向けた研究成果の発信を行っていきたいと考えている。
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備考 |
座談会(指宿信)「GPS捜査の課題と展望 : 最高裁平成29年3月15日大法廷判決を契機として」刑事法ジャーナル53, 26-58, 2017. シンポジウム企画(伊東裕司)「司法における確証バイアス:認知心理学から三田問題と対応策」日本認知心理学会15回大会、2017年6月. シンポジウム企画(厳島行雄)「司法における供述の取り扱いの諸問題・再考」法と心理学会18回大会、2017年10月.
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