モナリザ効果とは,絵画に描かれた人物が斜めから見ても正対して知覚される現象である.この現象は,画枠,および被描写物の持つ画像的手 がかりの存在が, 物理的な存在としての絵画に対する奥行き知覚を抑制する,つまり,画枠の中に,仮想的な,「枠の中の世界」が出現するる.特に以下の二点が注目に値する.(1) 絵全体と,描かれた人物の間に傾き知覚の乖離が生じ,手がかり間の相互作用, 物体の空間的表現の多重性が生じる.この時,形の恒常性は崩壊する.(2)絵画の 表面には稠密な両眼視差によって平面が決定される.しかし,この平面は知覚されない.この二点は,2次元表現からの3次元物体の知覚を考える上で重要な要素で あるが.本研究では,上記2点に関して検討を進め,2次元的に表現された3次元物体の知覚の本質に迫ることを目的とする 初年度である,18度には,研究環境の構築,典型例のデータ収集を行った.19年度には,顔幅を指標とし,形の恒常性の崩壊過程を検討し,実験手法としての顔幅測定の 妥当性を確立すると共に,モナリザ効果の生起の,「顔らしさ」に対する依存性を評価した.最終年度である20年度には,最終的な目的である両眼視差の効果の検討を,主として,肖像画を構成する,背景,画枠,顔自体に分布する両眼視差の関係の評価として実施した.実験の結果,背景部分の両眼視差はモナリザ効果の生起に関係しないこと,画枠と顔部分の両眼視差はモナリザ効果の生起に関係するが,画枠,顔自体の両眼視差の間に加算的な効果が無いことを見いだした.こうした検討の結果,モナリザ効果では,両眼視差,顔の画像性手がかりが,2つの独立した過程で評価され,最終的に両者が統合され,意識にのぼる傾き知覚として生じるというモデルを提案するに至った。
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