研究課題/領域番号 |
17H02659
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
宮崎 隆志 北海道大学, 教育学研究院, 教授 (10190761)
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研究分担者 |
向谷地 生良 北海道医療大学, 看護福祉学部, 教授 (00364266)
大高 研道 明治大学, 政治経済学部, 専任教授 (00364323)
照本 祥敬 中京大学, 国際教養学部, 教授 (10227530)
小栗 有子 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 准教授 (10381138)
辻 智子 北海道大学, 教育学研究院, 准教授 (20609375)
岡 幸江 九州大学, 人間環境学研究院, 教授 (50294856)
荻原 克男 北海学園大学, 経済学部, 教授 (70242469)
宋 美蘭 北海道大学, 教育学研究院, 専門研究員 (70528314)
内田 純一 高知大学, 教育研究部総合科学系地域協働教育学部門, 教授 (80380301)
白水 浩信 北海道大学, 教育学研究院, 教授 (90322198)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 民衆思想 / 平等 / いのち / 協働 / 記憶 |
研究実績の概要 |
名古屋市の南医療生協、岩手県旧沢内村、高知県旧西土佐村における地域保健実践に即して、民衆思想の根源に位置する平等思想の論理について以下の諸点を確認した。第一に、平等思想は「いのち」の次元に遡及することで生成しているが、その遡及の契機は南医療生協では伊勢湾台風による被災と公害による喘息被害であり、旧沢内村では劣悪な医療体制に起因する乳幼児の死亡、旧西土佐村では満州分村に伴う戦争記憶の継承と沢内村との出会いであった。これらは、日常意識の背後に存在する断層が顕在化するときに、日常を維持する利害関係を超えた根源的な価値が意識化されることを示している。逆に言えば、意識化された断層は、現在を意味づける参照基準として機能している。 第二に、南医療生協では、地域保健活動・健康づくり実践に協働で取り組む中で発揮される参加者の能動性とその変化に価値が見出されていた。被災の記憶は相互扶助を価値づけたが、その基盤の上に、相互の発達による集団的な主体の形成を重要視するに至っている。ここでは、参加者の発達を根拠に協働の評価を行うという教育的視点が生成していることを確認できる。 第三に、以上の二つの特徴に基づけば、対象事例に即する限りでは、民衆思想としての平等思想は、日常生活の根源的価値としてのいのちの価値に加えて、いのちの現実態として把握された協働の経験を通した人間発達の可能性に価値を置くことにより構成されているといえる。この二層の構造的関連と変動の論理を解明することが次の課題として浮上した。 第四に、釜ヶ崎を対象にした研究会では、表現活動による記憶の再構成と継承の可能性が確かめられた。この点は、他地域の分析に方法的な示唆を与えるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ごく限定的な調査しか実施できなかったが、実施済み調査データの再整理も含めて、本研究の根幹にかかわる仮説を得ることができた。もとより性急な普遍化は慎まねばならないが、沢内村の事例を位置付けたことにより、1960年代から70年代に至る地域と国家の構造変動過程の中に民衆意識の動態を読むことが可能になり、また沢内村を起点とする実践上の連関も確認できたことから、事例間の比較検討の見通しを得ることができた。 釜ヶ崎における表現活動は、南医療生協の協働の実践とも共通する意義を有するものの、記憶と文化という新たな次元を分析枠組みに組み込む必要性をも示唆している。この知見を得ることにより、民衆意識・思想と記憶との関連に関する新たな検討課題が確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
西土佐村の実践の前提は秋田県上郷における宮原伸二医師の実践であるが、この実践は沢内村とも間接的な関連をもっているはずである。これまでの研究により確認した「いのち」の次元の平等性の論理を協働に基づく創造経験に基づき深化させる過程を、上郷の実践に即して確認することが第一の課題となる。そのためには宮原伸二医師へのインタビューも必須である。 当初は地域健康学習の実践を基軸に据えることは想定しなかったが、民衆意識・思想の変動過程を、教育的働きかけも含めて読み解く場合には、この領域の実践が相応しいと思われるため、今後は地域健康学習に関する実践を分析の基軸に据えることにする。当初予定していた研究分担者による各地の事例分析は、この基軸に基づき開催する研究会において、分担者が当該地域の事例を踏まえたコメントを述べる形で参照することにする。
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