研究課題/領域番号 |
17H02697
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
中村 美智太郎 静岡大学, 教育学部, 准教授 (20725189)
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研究分担者 |
竹内 伸一 名古屋商科大学, 経営学部, 教授 (60774487)
鎌塚 優子 静岡大学, 教育学部, 教授 (80616540)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ケースメソッド / 道徳教育 |
研究実績の概要 |
本年度は昨年度に引き続き,「価値概念の原理的探求と道徳教育実践の史的検討」「ヘルス・プロモーション活動研究に基づいた教員研修メソッドの開発」「ケースメソッドに基づく共感・連帯を可能にする実践方法探求」「ディスカッション・リーダーの高度化と『学び続ける共同体』の形成」の4つの領域・問題群にまたがる研究班を維持し,各班は昨年度までより頻度を上げておよそ1ヶ月に1回のペースで定期的にクロスワークを行いながら,それぞれ研究成果を積み上げてきた。 本年度は,2018年に刊行したケースメソッド教授法に基づく道徳教育の実践入門書を活用し,実践者が,道徳教育の現在地・今後の方向性の理解を獲得した上で,多様なケースを活用したディスカッションに基づく道徳教育実践を実現していくプロセスそのものを明らかにすることを,主な研究上の課題として研究を進めてきた。特に,ケースメソッドに基づく道徳教育を組織的に推進してきた組織のリーダーが,どのような教育実践基盤に基づき,それを実現してきたかという問題に焦点を当てて,インタビュー調査を重ねながら質的にその基盤形成プロセスを抽出し,論文として公開した。また,他教科や他領域・他活動等と連携した道徳性の涵養の方法についても検討を重ね,ディスカッションやケース活用等の欧州における先行事例に学びつつ,ドイツの研究機関とも研究ネットワークを構築し,議論を深めた。さらに,実践者と未実践者が議論するシンポジウムを開催し,ここまでの研究成果を還元するとともに,研究上の課題を共有した。 これらは,教科化を果たした道徳教育の刷新と加速という喫緊の課題に,教員が道徳教育の実践能力及びメソッドを高められるような教材開発と,それを基盤とした,ケースメソッド教授法の道徳教育への導入による教員の資質を「高度化」する教員研修メソッドの再構築を目指す本研究全体の目的にとって意義の深い成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「価値概念の原理的探求と道徳教育実践の史的検討」「ヘルス・プロモーション活動研究に基づいた教員研修メソッドの開発」「ケースメソッドに基づく共感・連帯を可能にする実践方法探求」「ディスカッション・リーダーの高度化と『学び続ける共同体』の形成」の4つの領域・問題群にまたがる研究班ごとに,ケースメソッド教育及び道徳教育に関する先行事例調査を進めつつ,研究班同士の緊密な連携に基づいて,ケースメソッド教育を組織的に推進していくための基盤の一端を明らかにすることができた。当初の計画では,各研究班ごとの研究活動をさらに深めながら,教材完成版を活用した実践の効果を検証することになっており,この検証についても研究成果として2018年に刊行した書籍を活用した実践の分析・検討を行うことで,前進させることができた。また,ここまでの成果についての国際的・学術的に評価を受けるという点についても,ドイツにおける意見交換の場を持つ中で,議論することができ,おおむね実現することができ,あわせて次年度への課題も確認することができた。開催した本年度1回目のシンポジウムでは,小学校・中学校・高等学校の教員がケースメソッド教授法を活用した道徳教育について議論することができ,本研究が目指す「シリアルな道徳教育の実現」に向けて漸進することができた。 なおCOVID-19感染拡大の影響を受け,年度末に実施予定だった本年度2回目のシンポジウム及び研究会の実施は次年度に延長せざるを得なかった。しかしながら,研究全体としては,それ以外で当初に予定していた研究計画をほぼ遂行することができたため,おおむね順調に進展していると判断・評価した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの成果に基づき,今年度も引き続き各班での研究成果を蓄積しながら,検討会・研究会を積極的に開催・参加し,小・中・高全ての教育現場との往還を目指しながら,理論部分でも精緻化を図り,作成した教材集と刊行した書籍をベースとした教員研修メソッドの教員養成・研修における活用可能性を追求する。特に,現代的な諸課題への応答するものを含む,こころのケアと多様なコミュニティ形成への支援に着目した新たなケース開発及び教材作成に注力したい。そのために,インタビュー調査等を継続し,ケースメソッドに基づく道徳教育を組織的に実現するリーダーシップの様態を分析する。また,義務教育との接続も視野に入れながら,教科化が行われていない高等学校における道徳教育の展望可能性を開拓したい。さらに,養成・研修の形態として,リモートでの実施についても視野に入れながら,ICTの積極的な活用についての知見を蓄積したい。これらを通じて,ケースメソッド方式での道徳教育の実践方法を身につけることで,教員の資質・能力の「高度化」がいかに行われ得るのかという課題と可能性についても検討を続け,次年度に向けて示唆を得ていく。 あわせて,海外における研究者との研究連携の維持・拡大を目指し,成果を国際的な視野からも批判的検討が可能な基盤を形成したい。他方,研究遂行上の問題点としては,昨年度末から拡大するCOVID-19の影響がある。これに対応するため,養成・研修メソッドの開発と並行しつつ,シンポジウムや研究会を効果的に実現するオンライン及びオンデマンド方式の採用を検討したい。 以上を通じて,ケースメソッド教育の実践基盤構築を通じて,多様なコミュニティに置かれた子どもの心をケアし,多様性の涵養を支援する教員の資質・能力を向上させる道徳教育の実現を目指し,「教科化」時代の道徳教育を加速する教員研修メソッドの再構築とその促進を実現していく。
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