研究課題/領域番号 |
17H02714
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
葉石 光一 埼玉大学, 教育学部, 教授 (50298402)
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研究分担者 |
大庭 重治 上越教育大学, その他部局等, 理事兼副学長 (10194276)
池田 吉史 上越教育大学, 大学院学校教育研究科, 准教授 (20733405)
浅田 晃佑 白鴎大学, 教育学部, 准教授 (90711705)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 知的障害 / 手作業 / 社会的促進 |
研究実績の概要 |
知的障害児・者の運動機能に対する社会的促進効果について検討を進めた。具体的には、運動機能については鉛筆にキャップをはめるキャップ付け課題を、観察者の有無、共行為者行為者の有無を組み合わせた4条件で実施し、結果を分析した。結果の分析にあたっては、対象者の手先の巧緻性、他者意識および実行機能を考慮した。結果は以下の通りである。 1) 観察者ありの条件では、共行為者の有無によってキャップ付け課題の成績に違いは生じなかった。2) 観察者なしの条件では、共行為者ありの場合、なしの場合に比べて作業量が有意に増加した。この傾向は実行機能の問題が大きい者においてより顕著であった。一方、他者意識の評価と共行為者の存在による社会的促進の効果の間には明確な関連がみられなかった。以上より、少なくとも実行機能に問題がある場合、共行為者が存在しない状況では作業が安定せず、結果としての出来高が少なくなってしまうこと、共行為者の存在が作業での覚醒を高める、あるいは作業への集中の維持を促進する効果があり、出来高が向上する可能性があることが考えられた。また一般には、観察者の存在が社会的促進効果をもたらすことがあるが、本研究の結果では知的障害児・者にこの傾向はみられなかった。観察者の存在が、共行為者の存在の効果を打ち消すような、対象者にとってのネガティブな効果をもってしまう可能性が示唆されるが、この点は今後の検討課題である。また、社会的促進効果は作業の出来高に反映されたものの、作業の質については変化がみられなかった。つまり、作業の誤りは社会的促進によって低下しなかった。この点を改善する方策を検討することも今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
知的障害児・者の運動機能に対して、観察者ではなく共行為者が存在することによる社会的促進効果がみられることを明らかにできた。社会的促進効果を生じさせる刺激の質を特定できたことで今年度は支援方策を開発する見込みが立ったことから、おおむね順調に進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度の研究により、知的障害児・者の運動機能に対して、共行為者が存在することによる社会的促進効果を期待できることが確認できた。今後は、共行為者の存在が知的障害児・者の運動機能のどのような側面を支えるものとなっているか、より厳密に特定し、運動機能の支援方策を開発する手がかりを得ることが第一の目的となる。2018年度の検討では、実行機能の弱さを補う効果があると考えられる結果を得ることができたため、まずはこの点の検討を一層進めていく。一方で、当初、他者をどのように意識しているかということに関わる他者意識、他者認知との関わりが見られると予想していたが、この点については明確な結果を得られていない。他者意識、あるいは他者認知の測定方法を再検討して、この点の関わりをより明確にしていく必要がある。 また本研究では、知的障害児・者の運動機能における安定性の向上を目指すことを重視している。知的障害児・者の運動機能の安定性が、社会的促進効果によってどのように変化するかを検討することも今年度の課題である。
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