研究課題/領域番号 |
17H02722
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
二又 政之 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (20344161)
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研究分担者 |
石川 満 城西大学, 理学部, 客員教授 (70356434)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 表面プラズモン / ギャップモード / 光捕捉 / 光触媒 / in situ高感度ラマン / 光エッチング |
研究実績の概要 |
(1)光捕捉:前年度までに、我々が見出した分散液中の銀ナノ粒子(AgNP)とAg薄膜基板との光捕捉現象に関して、van der Waals引力系に加え、静電反発系に拡張した。特に塩化物コートAgNPとp-MBA/銀基板の静電反発系でも、理論計算による予測とよく一致する結果を得た。捕捉時間短縮のためにパルスレーザが有用であることを理論計算及び予備的実験で見出した。 (2)光触媒反応:a)p-メチルチオフェノール(p-MeTP)の光酸化で生成するp-メルカプト安息香酸(p-MBA)が、さらに光照射で酸化的に脱炭酸し、チオフェノール(TP)を与える反応について、tert-ブチルアルコール及びアスコルビン酸添加により、p-MBA生成は起きるがTPへの脱炭酸反応が抑制されることを見出した。このことは、酸化的脱炭酸の活性種がヒドロキシラジカルであることと、p-MeTPの活性種が別の化学種であることを示す。b) ギャップモード配置での酸化反応時間(約90分)を促進するために、表面粗さを有する銀蒸着膜を用いたところ、 10分以内に反応がほぼ完了した。AgNPの表面の塩化物イオンが、ホットキャリヤ移動を抑制していることを確かめた。c)Au蒸着膜表面ではp-MeTPの光酸化は全く起きない。これは、AgとAuの酸素との結合性の違いによると考えられる(Chem. Phys. Lett. in rev.(1))。 (3)光エッチング:水溶液中での銀蒸着膜への光照射で、銀のナノスケール形状が大きく変化し、部分的な酸化溶解と周辺部での還元析出を見出した。これは、これまでほとんど報告がない新しい現象で、光酸化と同様に表面プラズモンの緩和過程で生成するホットキャリヤによると推測され、表面増強ラマン散乱や光酸化反応に本質的に影響を与える(Chem. Phys. Lett., in rev.(2))。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通りにおおむね順調に進展している。その理由は、光触媒反応のメカニズム解明につながるいくつかの新しい結果を見出したためである。例えば、光酸化反応に関して酸化活性種の同定が進んでいることともに、新規光エッチング現象を見出した。後者は、表面プラズモン活性の高い金属に幅広くみられる可能性があり、そのメカニズムは、ホットキャリヤ移動による光化学反応に深いかかわりがある。本研究において、光触媒反応の本質について、重要な知見が得られる可能性が出てきた。これらの成果は、この分野の研究の大きな展開につながる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果に基づき、光捕捉・光触媒反応・光エッチングのメカニズムの解明と、AFMをベースとするナノラマンイメージング技術との複合を進める。具体的には以下の点について検討を進める。 (1)光捕捉:a)パルスレーザとCWレーザの複合により、光捕捉の高速化を進める。b)ギャップモード条件下での光捕捉力の測定:AFMカンチレバーに固定したAgNPを用いて、ナノスケールでの距離と表面間力・光捕捉力の関係を解析する。c)光捕捉の利用:ATR配置で、Ag基板に垂直なギャップモード電場を利用して、AgナノロッドやAgナノキューブ等の配列形成と積層化を検討する。(2)光触媒反応:a)メカニズム解明:種々の雰囲気でのp-MeTP関連分子の測定と量子化学計算を複合して、ホットキャリア移動の反応過程を解析する。ナノスケールでの光酸化反応:チップ増強ラマンと複合し、ナノスケールでの光酸化反応の解析を進める。(3)光エッチング反応:金属の種類(表面電子状態のUPS/IPSによる実測、量子化学計算による解析)、ナノスケール形状、光学配置、励起光、溶液組成(pH, 還元剤の濃度)等との関係を調べる。
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