研究課題/領域番号 |
17H02727
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
原 真二郎 北海道大学, 量子集積エレクトロニクス研究センター, 准教授 (50374616)
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研究分担者 |
本久 順一 北海道大学, 情報科学研究院, 教授 (60212263)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 垂直自立型ナノワイヤ / スピンエレクトロニクス / スピントランジスタ / ボトムアップ / メゾスコピック系 |
研究実績の概要 |
独自の半導体ナノワイヤ(NW)技術と半導体スピントロニクス技術の融合により、(1)垂直自立型(縦型)半導体NWと磁気トンネル接合(MTJ)電極によるヘテロ接合NWを用いた垂直自立型NWスピン電界効果トランジスタの実現、(2)材料を問わず種々の結晶ウェハ上で位置・サイズ制御可能で、原子レベルで急峻な単結晶ヘテロ接合界面の形成が可能な新奇のボトムアップ型集積技術の基盤確立を目的とする。これを目的に本年度は、縦型NWのボトムアップ選択形成、磁気輸送特性評価、ナノデバイスプロセスの検討、MTJ電極パターンの作製と評価を中心に研究を推進した。 海外研究協力先との連携では、母体のInAs-NWチャネル中の電流と印加磁場方向の角度に依存した磁気輸送特性評価を進め、電子輸送現象の系統的なメカニズム構築に向け、試料数を増して追実験を行った結果、NW表面での電子散乱過程の温度及び印加磁場強度依存性に関する知見を得たが、物理現象を解明するモデル構築に予想以上に手間取り、追実験と共に継続して解析中である。国内研究協力先・NIMSとの連携では、電子線リソグラフィとリフトオフにより作製した金触媒ナノ構造パターンを用いたSi半導体NW選択成長の追実験を進め、Si(111)ウェハと垂直な<111>方向のみにSi-NWを選択的に形成する結晶成長条件として、比較的高真空条件下でのSi原料ガス供給が適するとの知見を得ており、直径90nm、高さ500nm程度の垂直自立型Si-NWを作製したが、リフトオフに伴うAu/Si界面汚染による金触媒の不活性化に起因すると考えられるNWの不均一成長と低成長速度が課題として残った。北陸先端大との連携で進めるMTJ電極作製では、CoFe薄膜の磁区構造が電極の形状(アスペクト比)・方向、CoFe層膜厚(10, 20nm)に強く依存するとの明瞭な知見を得ており、素子試作の指針を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第2年度の目標であった縦型ヘテロ接合ナノワイヤ(NW)のボトムアップ選択形成技術の確立と物性・構造評価及び電極構造・ナノデバイスプロセスの検討について、当初計画の国内外研究協力先と連携し、鋭意実験を推進した。海外研究協力先との連携により、母体のInAs-NWチャネル中の電流と印加磁場方向の角度に依存した磁気輸送特性評価を進め、電子輸送現象の系統的なメカニズム構築に向けて、試料数を増加してデータの蓄積を進めてきたが、当初構築したモデルから一部想定外の測定結果が得られ、物理現象を解明するモデル構築に予想以上に手間取っている。追実験の実施と共に引き続き鋭意解析中であるが、準備中の学術雑誌論文発表も含め、計画に遅れを生じている。MnAs強磁性体ナノ構造を含むMnAs/InAsヘテロ接合NWで課題であった試料の高抵抗については、原因を探るべく委託した第一原理による理論計算の結果、金属/半導体界面、つまりMnAs/InAs界面にショットキー障壁は生じず、界面のエネルギー障壁が主要因ではないとの知見を得ているものの、主要因の特定には至っていない。また国内研究協力先・NIMSとの連携により、垂直な<111>方向のみにSi-NWを作製可能な条件を取得したが、リフトオフに伴うAu/Si界面汚染による金触媒の不活性化に起因すると考えられるNWの不均一成長と低成長速度が課題として残っている。北陸先端大との連携で進める磁気トンネル接合電極作製では、CoFe薄膜の磁区構造が電極の形状(アスペクト比)・方向及びCoFe層膜厚に強く依存する結果を得ており、素子設計の点で大きな進展があった。 なお第2年度は、発生した北海道胆振東部地震が研究施設・実験装置に少なからず影響したことにも起因して、研究協力先との連携を軸に種々の実験を進めたことを付記すると共に、上述の進捗状況を鑑み、やや遅れていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
磁区・磁化方向制御した磁気トンネル接合(MTJ)電極パターンを実際に用いて、InAs系及びSi系ナノワイヤ(NW)へのスピン偏極電流注入の実証を目指す。これを最優先に、これまで検討してきたCoFe/MgO-MTJ電極に注力し実験を進める。1本の横倒しNW上にMTJ電極を形成し、従来の非磁性Au/Ti電極との比較実験から、MTJ電極の磁化方向に起因した擬1次元メゾスコピック系の磁気輸送特性に関する知見を得る。縦型素子構造も含め、NWを絶縁膜で埋め込んだ後、電極形成する部分のみ再度NWを露出させ、MTJ電極を平坦に形成するデバイスプロセスを確立する必要があるが、第2年度に、低誘電層間絶縁膜材料の非晶質HSQによるNW埋め込みとNW再露出のためのドライエッチング条件を取得しており、確立したプロセス技術を基に素子試作を進める。MnAs強磁性体を含むMnAs/InAsヘテロ接合NWの高抵抗の問題に対しては、InAs-NWチャネルへのドーピング等により解決すると共に、母体のInAs-NWも含め、試料数をさらに増加してデータの蓄積を進め、負の磁気抵抗効果等、擬1次元メゾスコピック系物理を解明するモデルを構築する。Si(111)ウェハと垂直な<111>方向のSi-NW選択成長で生じた、リフトオフに伴うAu/Si界面汚染による金触媒の不活性化の問題に対しては、プロセスを見直した結果、電子線リソグラフィ用レジストによる汚染が主要因と考えられるため、酸素アッシング等、Au薄膜堆積前の表面処理を検討する。これらに関しては、当初計画の通り国内外研究協力先と鋭意連携することで効率的に実施する。第2年度までに確立した種々の要素技術を結集してInAs系及びSi系NWによる縦型スピントランジスタの試作と評価を行うが、これまで縦型素子作製プロセス等で共同研究を進めてきた研究分担者との連携により推進する。
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