研究実績の概要 |
フォノンの粒子的描像および波動的描像を用いることで説明できるナノスケールにおいて顕著になる熱輸送の物理探求と、従来のマクロスケールでは実現不可能な高度な熱伝導制御技術の開発を行った。シリコンおよびシリコンゲルマニウム薄膜にフォノニック結晶ナノ構造やナノワイヤー構造を形成し、マイクロ時間領域サーモリフレクタンス法を用いて、これらの構造の熱拡散を測定し、シミュレーションを合わせて熱フォノン輸送に関する知見を得た。基礎研究の顕著な成果として、フォノンの持つ弾道性を利用した研究では、世界で初めて指向性熱流の提案・実証および集熱の提案・実証に成功した(Nat. Commun, ACS Nano)。波動的な性質を利用した研究では、短距離秩序を系統的に制御したフォノニック結晶・アモルファス系で熱フォノンの干渉によって熱伝導率をチューニングできることを世界で初めて示した(Sci. Adv.)。また、熱電変換デバイスに関する成果としては、ナノ構造化を行ったシリコンおよびシリコンゲルマニウム薄膜の熱電変換性能を、不純物密度、アニール温度、構造パラメータについて最適化し、熱電変換デバイスのプロトタイプを作製した。ナノ加工には、電子線描画だけでなく、大面積作製のためにナノインプリント技術を用いたプロセスも行い、ホットプレート上にのせたデバイスの発電を確認した。シリコンゲルマニウム薄膜内では、元素の質量の違いによる散乱の増大により、高周波数のフォノン輸送が阻害され、フォノニックナノ構造によって低周波数のフォノン輸送を阻害することで、マルチスケールな熱フォノン輸送の低減によって、高い熱電変換能を有するデバイスに仕上がると期待できる。一連の研究によって、ハイブリッド伝熱制御にむけて熱フォノンエンジニアリングの基礎的分野を開拓しながら、高効率熱電変換デバイスの作製技術を進展させることができたといえる。
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