研究課題/領域番号 |
17H02734
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
小林 成貴 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (40595998)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 原子間力顕微鏡 / 電位計測 / ナノ計測 |
研究実績の概要 |
本研究は、表面電位分布を液中かつナノスケールで可視化できるオープンループ電位顕微鏡の定量測定の信頼性向上と電位・空間分解能向上を目的とするものである。今年度は、探針先端にはたらく静電的相互作用力を支配的に検出することができる手法の開発に取り組んだ。そこでまず、導電性カンチレバー/探針を絶縁体でコーティングし、探針先端の絶縁コーティングをコンタクトモードで除去することで、探針先端部だけ導電性を有するようなカンチレバーの作製を試みた。そのために、高周波スパッタリング装置を導入した。絶縁コーティング材料として、今回は二酸化シリコン(SiO2)を選択し、まずはマイカ基板の上で成膜条件の検討を行い、100nm程度までの成膜条件を決定した。その後、カンチレバーに絶縁コーティングを施し、コンタクトモードによる絶縁膜除去の条件検討を行った。この続きは次年度に行う。 一方、真空中ケルビンプローブフォース顕微鏡(KFM)測定では、ヘテロダイン法により、探針先端にはたらく静電的相互作用力を支配的に検出できることが報告されている。KFMと異なり、静電的相互作用力の1次と2次の変調周波数成分を利用して電位を求めるオープンループ電位顕微鏡でもヘテロダイン法が応用できるか検討した。その結果、理論計算上では、報告されたヘテロダイ法と同等のレベルで支配的検出が可能であることが示唆された。次年度、この結論を実験的に評価する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
導電性カンチレバー/探針の絶縁コーティングに必要な高周波スパッタリング装置は非常に高額であるため、仕様決定するまでに複数の業者から話をしっかり聞く必要があったこと、入札、そして、導入までに業者と綿密な打ち合わせを必要としたことにより、納品まで予想以上に時間を要した。そのため、当初は探針先端部にのみ導電性を有するカンチレバーの作製とそれを用いた静電的相互作用力検出の評価まで行う予定であったが、そこまで到達することができなかった。今年度は、探針作製・評価に注力することで、これまでの遅れを取り戻す。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、前年度取り組む予定であった、探針先端部の絶縁膜除去の条件を確立する。具体的には、コンタクトモードAFMで探針先端を金属試料表面にこすりつけて絶縁膜を除去する。絶縁膜が除去できたかどうかは、探針-試料間に電流が流れたかどうかで判断する。Deryloらはこの方法でも探針先端の曲率半径は大きくならず、空間分解能にあまり影響しないことを示している。次に、その探針を用いて、探針先端部にかかる静電的相互作用力を支配的に検出することができるかどうか検討する。探針先端、探針側面、カンチレバーにかかる静電的相互作用力の距離依存性は異なるため、静電的相互作用力の1次、2次の変調周波数成分の探針-試料間距離依存性を測定し、それぞれの理論式と比較することで、探針先端成分の静電的相互作用力が予想通りに検出できているかどうか確認する。 報告されているヘテロダイン検出法では、変調用交流電圧信号と、カンチレバーの励振信号と同期した信号を掛け合わせることで生じるそれぞれの周波数差の周波数をもつ交流電圧を探針-試料間に印加する。このとき生じる静電気的相互作用力はその周波数成分を有する。一方、静電気力には距離依存性があり、探針の位置はカンチレバーの共振周波数で振動しているため、静電的相互作用力はカンチレバーの共振周波数で変調されている。そのため、静電的相互作用力には変調周波数成分が生じる。そこで、これらの動作が可能な装置を立ち上げ、オープンループ電位顕微鏡での応用が可能かどうか検討する。
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