研究課題/領域番号 |
17H02735
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
前田 優 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (10345324)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 単層カーボンナノチューブ / カーボンナノチューブ / 化学修飾 / 近赤外発光 |
研究実績の概要 |
フラーレンの化学修飾においては、2つの付加基が近接して付加する1,2-付加が速度論的・熱力学的に有利な生成物である。しかし、付加基がかさ高く互いに立体反発を及ぼす場合、1,4-付加体や1,6-付加体が熱力学的生成物として得られてくる。そこで、発光波長を制御する因子の一つとして付加基の立体的因子について着目した。世代の異なるデンドロン型反応試薬を設計・合成して、SWNTsを化学修飾することで、立体的因子に起因する発光制御について検討した。第一世代から第三世代までのデンドロンを付加したSWNTs-G1 - SWNTs-G3について、吸収、ラマン、発光分析を行ったところ、世代が高くなると化学修飾率が減少した。これは、付加基同士の立体反発によって反応性が低下したものと考えられる。また、SWNTs-G1が1100 nmと1200 nm付近に化学修飾由来の2つの発光を与えたのに対して、SWNTs-G3は主に1100 nm付近の発光のみが観察された。これらのことから、立体効果によっても近赤外発光波長を制御できることが明らかとなった。これらの発光と付加基近傍の部分構造の関係性を評価するために、デンドロンが2つ付加したものとデンドロンと水素原子が1つずつ付加した分子をモデル分子として理論計算を行い、熱力学的安定性と吸収波長の関係性を評価した。実験結果と理論計算の結果を比較したところ、世代が低い場合にはデンドロンが2つ付加する反応とデンドロンと水素原子が一つずつ付加する反応が競争し、世代が高い場合にはデンドロン同士の立体反発によってデンドロンと水素原子が一つずつ付加する反応が選択的に進行する可能性が示された。以上、付加基の立体的因子に着目し、化学修飾によるSWNTsの発光波長制御に及ぼす効果を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
付加基の立体的因子に着目し、化学修飾によるSWNTsの発光波長制御に及ぼす効果を初めて明らかにすることに成功した。 モデル分子を用いた理論計算によって、反応試薬によって異なる発光が生じる理由について考察し、詳細な構造解析が困難であるSWNTs付加体の構造モデルを示すことができた。 以上の点から、研究は概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
再度、発光分光光度計が故障し、発光測定実験に支障が出ている。分光光度計の修理が完了次第、その間に合成を進めてきた種々のSWNTs付加体についての評価を行う。 今後は、これまでの知見に基づき、反応試薬のアルキル鎖長と置換基効果に着目して、発光波長制御に関する知見を得る。
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備考 |
前田優、紺野優以、カーボンナノチューブの化学修飾による発光特性の制御、応用物理, 2019, 88, 180. https://www.jsap.or.jp/ap/2019/03/ob880180.html
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