研究課題/領域番号 |
17H02737
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
桑原 真人 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 准教授 (50377933)
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研究分担者 |
肖 英紀 (肖英紀) 秋田大学, 理工学研究科, 講師 (10719678)
石田 高史 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 助教 (60766525)
長尾 全寛 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 准教授 (80726662)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | スピン / コヒーレント / マルチフェロイック / 電子顕微鏡 / ナノ材料解析 |
研究実績の概要 |
スピン偏極電子銃の電子顕微鏡への搭載を実現した。電子銃、差動排気チャンバーそれぞれの超高真空状態を維持できることを確認し、特殊な表面状態を有する電子線発生部の安定動作を実現した。次に、電子線発生ならびに電子顕微鏡SEMへの輸送を行い、電子顕微鏡像の取得に成功し、電子線がもつエネルギー線幅が非常に狭いことによる分解能向上が確認された。最も困難とされる光励起電子源を用いた電子顕微鏡像の取得に成功しており、この点は当初計画よりも大きく進んでいると言える。 一方、スピン計測用試料としてナノ構造パターニングした磁性体試料作成を進めた。EBリソグラフィーを用いて数百ナノメートルサイズの磁性金属多層膜の作製に成功し、その構造から起因する磁壁構造の変化の観察に成功した。さらにスキルミオンの発現が期待されるPt/Co/Ta多層膜の作製には膜厚精度をサブナノメートルまで必要とするため、パルスレーザー蒸着(PLD)法を用いて重金属蒸着の高精度制御の確立を進めた。この結果、1層ごとの重金属または磁性金属の厚み精度をナノメートルまで制御することに成功し、ネールタイプスキルミオンが観察される試料の作製に成功した。 また、コヒーレントなスピン偏極電子線光路上に空間位相変調絞りを挿入し、空間位相変調を生じることをスピン偏極透過電子顕微鏡(SPTEM)にて確認する。その後、TEMに搭載している電子線バイプリズムを用いて干渉縞を生成し、その一次干渉項から空間的に位相が変調していることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H30年度の研究内容は、1)スピン偏極電子銃の電子顕微鏡への搭載と空間分解能の検証、2)ナノパターニングされた強磁性体材料の作成と観察、3)空間位相変調したコヒーレントスピン偏極電子線の生成の3つである。これら3項目ともに当初計画通り進んでおり、次年度に控える研究に遅延などの影響を及ぼすことなく進行している。さらに、最も困難とされる光励起電子源を用いた電子顕微鏡像の取得に成功しており、この点は当初計画よりも進んでいるところとなる。これにより、次年度以降に計画されるスピン依存性の計測、空間位相変調したコヒーレントスピン偏極電子線の応用などが計画通り進められる見通しとなる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に作成した装置をもちいてスピン依存性の計測に挑む。まず、電子顕微鏡像を用いて、各電子線エネルギー、収束角に対する空間分解能を計測する。これにより、低加速条件においても、色収差低減効果による空間分解能の向上が実現されることを確認する。その後、BSE検出強度におけるスピン依存性の計測を実現する。これに必要となる試料として、低真空環境下でも観察可能な強磁性酸化物を準備し、その後方散乱電子の入射スピン方向に対する検出強度依存を実施する。この信号処理については自動的に差分強度マッピングが表示される計測制御システムを構築し、スピン依存性を最大化するエネルギー条件を見出す。散乱断面積のスピン依存性を物質のフェルミレベル近傍の電子スピン状態と合わせて明らかにする。また、逆光電子分光が可能となるよう光検出についても検討を進める。スピン検出に最適な試料の作製についても引き続き進め、前述のスピン計測としての効果が十分に引き出せる条件を見出し、局所スピン状態の緩和過程の学理的解明を目指す。
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