研究課題/領域番号 |
17H02743
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研究機関 | 一般財団法人ファインセラミックスセンター |
研究代表者 |
川崎 忠寛 一般財団法人ファインセラミックスセンター, その他部局等, 主任研究員 (10372533)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 電子顕微鏡 / その場観察 / オペランド計測 / 電子線照射効果 / ストロボ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、『電子顕微鏡その場観察において、これまで原理的に避けられなかった電子線照射の影響を除去し、反応現象そのものによって起こる純粋な変化・挙動を直接に観察できる“能動変調型・環境電子顕微鏡”を新規開発することと、その応用研究』である。これを実現するために、まずは4つの要素技術開発を進める必要があり、初年度はその検討・製作を実施した。具体的には以下の通りである。 ① 電子線をパルス化して試料照射できる“パルス電子銃”: 電子ビームのON/OFFを切り替えるための偏光器として、電界/磁界を利用した装置の検討を行った。その結果、高加速電圧(300kV)にて高周波変調するためには磁界型を利用する必要があるとの結論を得た。 ② 反応ガスをパルス状に噴射する“パルスガス導入機構”: パルス状のガス導入のために高速変調可能なガスバルブの選定を行い、それらを2つ逆方向に並べることで振動をキャンセルする機構を着想し、開発中である。 ③ 試料の高速温度変調および液体導入ができる“MEMSチップ試料ホルダ”: 液中での試料観察を実現するためにMEMSチップ試料ホルダの開発を行った。極薄SiNの観察窓を有する2枚のMEMSチップで液体試料を挟み込むタイプの開発、およびグラフェンを用いた液体パック技術の開発を平行して進めており、いずれも液体を閉じ込めて電子顕微鏡内で観察することに成功している。 ④上記の各要素と動画撮影用のカメラを制御する“同期制御システム”: 制御システムベース装置を導入し、立ち上げが完了している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電子線照射と環境変調をそれぞれ制御する機能を有する電子顕微鏡装置を創出するため、初年度は4つの要素技術を開発してベースのTEM装置(日立ハイテクH9500)に組み込む計画であった。それぞれの進捗状況を以下に説明する。 ① 電子線をパルス化して試料照射できる“パルス電子銃”: 電子顕微鏡の収束絞り部分に偏光板を導入してビームのON/OFFを切り替える。偏光器として電界を利用する場合について検討を進めたが、高加速電圧(300kV)に対応するためには高圧電源を利用する必要があり、それを高周波変調するのは困難である、との結論に達した。そこで磁場を用いた偏光器の検討を進めている。 ② 反応ガスをパルス状に噴射する“パルスガス導入機構”: パルス状のガス導入について、高速変調可能なガスバルブの選定を進めている。問題はバルブ開閉に伴う振動の発生であり、それをキャンセルするために2個のバルブを別方向に同時に動作させるシステムを開発中である。 ③ 試料の高速温度変調および液体導入ができる“MEMSチップ試料ホルダ”: 環境変調のMEMSチップ試料ホルダの初段階として、液体中試料の観察が可能な試料ホルダを独自に開発した。極薄SiNの観察窓を有する2枚のMEMSチップで液体試料を挟み込み、それらをOringでシールすることにより電子顕微鏡の真空環境下においても液体が蒸発せず、直接液中試料を観察することが可能となっている。すでにテスト試料での検証を完了している。これに加えて、更なる高分解能観察のために、MEMSチップに代わりグラフェンを用いた液体パック技術の開発を推進しており、コロイド粒子の液中観察に成功している。 ④上記の各要素と動画撮影用のカメラを制御する“同期制御システム”: 制御システムベース装置を導入し、立ち上げが完了している。
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今後の研究の推進方策 |
4つの要素技術のうち、まだ完成していない以下の点について開発を進めつつ、応用研究を実施する。 ①電子線をパルス化して試料照射できる“パルス電子銃” ②反応ガスをパルス状に噴射する“パルスガス導入機構” 開発した要素技術を組み合わせ、以下の要領で同期変調しながら像撮影できるように装置全体のシステム化を行う。電子線、ガス(必要ならば試料加熱)、撮像の3つを、各々 タイミングをずらしてON/OFF する。一例として、ガス反応により粒径が肥大化する触媒材料を想定した場合、電子線OFF・ガスON の時だけ粒が成長し、その際には電子線の影響を受けていない。一方で電子線ON・ガスOFF 時は、粒子に変化がなく定常状態で撮像ON(TEM 像記録)となる。この一連の画像を観ると粒子が徐々に肥大化していく様子を動画像として得ることが可能となる。この例は不可逆な構造変化の場合だが、可逆的な反応挙動に適用する場合は各々の変調タイミングをずらすことで変形過程を動的に記録することが出来る。開発過程では、各部の変調タイミングの検証実験と波形の立ち上がり立ち下がりの急峻さを計測評価し、要求性能が得られるように装置改良・調整を行う。
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