研究課題/領域番号 |
17H02745
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小林 慶裕 大阪大学, 工学研究科, 教授 (30393739)
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研究分担者 |
仁科 勇太 岡山大学, 異分野融合先端研究コア, 准教授 (50585940)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 酸化グラフェン / 超高温プロセス / 乱層構造 / 欠陥 / ラマン分光法 / セルロースナノファイバー / 層間相互作用 |
研究実績の概要 |
グラファイトの化学剥離でスケーラブルに製造可能な酸化グラフェン積層膜を超高温(~1800℃)・エタノール反応性雰囲気で熱処理し、低欠陥・乱層構造を持つ多層グラフェン薄膜を形成することが目的である。1年目の平成29年度では、乱層構造グラフェン形成の原材料となる酸化グラフェン(GO)について、乱層形成に適した層数・酸化度・サイズに構造制御して合成する手法の開発を進めた。プロセス条件の最適化により、分散液における単層かつ10μm以上のサイズのGOの比率を向上させた。超高温での乱層構造の形成過程について、単層GOの自立積層体試料としてGO分散液を凍結乾燥して得られる多孔質GOスポンジ(サイズ:1cm角)を新たに導入した。自立構造体であるため、超高温でも基板材料との反応の影響を留意することなく、低欠陥グラフェン化のプロセスを実行でき、しかも電気炉での複数試料の同時処理も可能となった。得られたグラフェン構造体をラマン分光法で評価したところ、従来のGO凝集体を処理した場合に乱層構造の形成は表面近傍に限定されていたのに対して、多孔質のGOスポンジを用いることによって試料全体が乱層構造となり、欠陥の修復も進んでいることが判明した。ただし、乱層構造形成によってグラフェンシート間での層間相互作用が抑制された目安となる2Dバンド強度は、GOスポンジ作製の材料となるGO分散液の濃度に依存し、同一試料内でも大きくばらつくことが観測された。これは得られた試料において、積層構造が不均一であることを示している。その改善のため、分散条件の再検討に加え、グラフェン層間へスペーサー材料(セルロースナノファイバー)を導入して、層間相互作用を制御する検討に着手した。今後は、スポンジ状GOの構造均一性を向上して単層状物性を示す比率を高めるとともに、自立乱層構造グラフェンの電気・熱物性測定へと研究を展開する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
交付申請書では、(1)構造制御酸化グラフェン薄膜の合成、(2)光局所加熱炉による乱層構造グラフェン薄膜の低欠陥化、(3)電気炉による超高温・アルコール雰囲気でのスケーラブル処理の検討、(4)物性評価に向けた数層GO薄膜処理法の検討の4項目を今年度に実施するとしていた。 (1)については、低欠陥・乱層グラフェン膜の形成に適当な単層化率を高めて、10μmサイズのGO分散液合成技術を確立し、計画通りに進捗している。(2)(3)については、従来のGO凝集体を用いた自立膜では、乱層構造が表面近傍に限定されることが判明したため、当初計画とは異なり、多孔質スポンジ状GOを用いるアプローチをとることにした。その結果、試料全体が乱層構造となることを検証した。しかし、積層構造の不均一性が顕著であることも判明した。その対策として、GO層間にセルロースナノファイバーなどの炭素系材料を挟み込み、層間隔・積層構造を制御する新たな手法に着手した。(4)について、GOを架橋させる凹形構造のサイズが熱伝導計測に必要な5μm以上とすると加熱処理後に凹形構造の溝に落ちてしまい、架橋構造を維持できないことが判明した。その対策として、前述のスポンジ状GOから得られる乱層グラフェンの再分散やより大面積のCVDグラフェンを支持材とした試料形成の検討を始めている。 以上のように、必ずしも予定通りではなく別のアプローチではあるが、当初計画の目標を達成するとともに、当初予定していなかった手法を提案・実施しており、計画以上に進捗したと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に見出した高空隙スポンジ状酸化グラフェン(GO)からの低欠陥・乱層構造グラフェン形成技術をさらに深化させ、スケーラブルな合成技術へ発展させる。それとともに、単層グラフェンに類似した物性の実証や電極材料などバルクスケールでの応用技術への展開に着手する。具体的には以下の項目を実施する。 (1)構造制御GOのスケーラブル合成法開発:低欠陥・乱層構造形成に適した大面積(数10μm)・単層GO合成の構造制御性の向上に加え、より大きなスケールの合成技術へと進展させる。GO凍結乾燥プロセスを最適化し、高空隙スポンジ状GOの構造均一性や機械的強度を向上させる。前年度に着手したセルロースナノファイバー(CNF)などをスポンジ状GO層間に分散させ、層間相互作用の制御を試みる。 (2)超高温処理により形成した乱層構造グラフェンの低欠陥化:試料内部までの乱層構造形成が検証された高空隙スポンジ状GOの超高温処理を最適化し、欠陥低減や乱層構造比率を向上させる。処理雰囲気としては、水や炭化水素を添加し、平衡に近い状態での有効性を検証する。 (3)低欠陥・乱層構造グラフェン薄膜の物性解析:(I)物性解析に向けた薄膜試料作製:物性計測に必要な数層程度の基板上薄膜試料や~100μm厚の自立膜を作製する。前者は再分散したスポンジ状GOの基板塗布やグラファイト基板に形成した凹形トレンチ上CVDグラフェン構造にGOを担持し、超高温加熱することで形成する。後者はスポンジ状GOのプレス成形により作製を試みる。(II)キャリア輸送特性:絶縁物基板上の薄膜をチャネルとして電界効果トランジスタ(FET)やホール測定素子を作製し、キャリア輸送特性の解析を行う。(III)熱伝導特性:乱層グラフェンの熱伝導特性を数層の架橋薄膜とプレス成形で得られる自立膜(サイズはcmスケール)の両面から評価し、熱伝導率の向上効果を検証する。
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