研究課題/領域番号 |
17H02747
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
菊池 昭彦 上智大学, 理工学部, 教授 (90266073)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ナノ加工 / 量子ドット / 窒化物半導体 / 光デバイス |
研究実績の概要 |
本研究は、申請者が提案する低損傷で極微細加工に適した新しい窒化物半導体ナノ加工技術であるHEATE法による極限ナノ構造作製技術の確立と光デバイス基盤技術への展開を目的としている。2017年度の主たる成果を以下に示す。 1.850℃の低温エッチングと窒素アニールを組み合わせ、SiO2マスク下のInGaN-MQW層の発光強度がHEATE処理後も低下しない条件を見出した。また、NH3を数%添加するとp-GaNとInGaN-MQW部が垂直にエッチングできることを見出し、高密度・極微細InGaN量子構造の作製にへの大きな進展を得た。さらに、オゾン水酸化と酸化膜除去を繰り返してナノ構造側面を選択的に約0.5nm/回でデジタルエッチング可能な技術を開発した。本技術は、AlGaN層の無損傷エッチングへの適用も期待される。 2.オゾン水による表面酸化処理によってInGaN/GaNナノ構造の表面非発光再結合速度が1.1E3から0.4E3cm/sに大幅に低減されることを見出し、微細ナノ構造の効果的な表面パシベーション法を開発した。 3.数nmサイズの極限微細ナノ加工実現に向けた基盤技術である電子ビーム描画の最適化を行い、周期80nmにおいて、直径約40nmのドットパターンと幅25nmのストライプパターンを再現性良く描画する条件を把握した。装置メーカーによると通常条件下での限界に近い性能との評価だが、周期40nmでも不完全ながらナノピラーアレイの作製に成功しており、更なる極微細高密度化の可能性を示した。 4.HEATE法で作製した直径15nm~80nmのInGaN量子ディスクアレイの発光特性を系統的に評価し、微細化によってIn組成揺らぎの影響が大幅に抑制されることを見出した。 5.次世代光デバイス基盤技術の開拓に向け、窒化物ナノ構造との融合に適する有機半導体薄膜単結晶の成長法技術を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2017年度の研究は、交付申請書に記した計画が下記1~3に示す通り順調に進展した。これらに加え、予定以上に進捗した成果と予定外の成果4が得られたことから、(1)当初の計画以上に進展していると評価した。 1.HEATE法によるInGaN/GaNナノ構造作製におけるN2ガスとNH3ガスの導入効果を検討し、N2ガス添加は有意な効果は見られず、NH3ガス添加はエッチング異方性を高めて垂直性の良いナノ構造形成に有効であることを見出した。また、オゾン水酸化とバッファードフッ酸の交互エッチングにより、AlGaN層がエッチング可能であることを確認した。熱力学解析により、NH3の過剰添加はエッチング駆動力を低下させることを確認した。 2.オゾン水酸化による表面非発光再結合の抑制効果をPL法で評価し、室温におけるPL発光強度と緩和時間の増大から非発光再結合抑制効果を検証し、サイズ依存性から非発光再結合速度を定量的に算出した。KOH水溶液を用いる光電気化学エッチング法によるGaNのエッチング条件を把握した。 3.加速電圧50kVのEBL装置を用い、露光条件やリフトオフ条件を精査し、装置限界に近い周期80nm、幅40nm以下のSiO2マスク作製条件を把握し、HEATE法による微細ナノ構造アレイ作製への適用を検証した。 4.直径15~80nmのInGaN量子ディスクのPL発光特性を系統的に評価し、極微細化に伴うIn組成揺らぎに起因するキャリア局在効果が大幅に抑制されることを見出した。また、NH3を添加したHEATE法で過剰なエッチングを行うと、p-GaNとInGaN/GaN-MQW部のみが残存した薄膜構造が得られ、光共振器構造への利用可能性を見い出した。有機半導体薄膜単結晶の研究が急速に進展し、窒化物半導体ナノ構造に基づく光デバイス展開を推進する新技術への応用可能性が見出された。
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今後の研究の推進方策 |
1.HEATE法によるInGaNナノ構造作製技術の確立と学術的理解を目指し、NH3ガス導入によるGaN/InGaNナノ構造のエッチング形状制御とエッチング条件の関係を系統的に評価する。デバイス性能の向上にはAlGaN層の導入が有効なので、HClガス導入によるAlGaN層のエッチング可能性を検証する。また、熱力学解析手法を用いて、HEATE法によるGaNおよびAlGaNのエッチング特性を考察する。 2.InGaN/GaNナノ構造のデバイス応用における最重要技術の一つである表面非発光再結合抑制技術の理解と改良を目指し、オゾン水酸化パシベーション効果のナノ構造サイズ依存性を系統的かつ定量的に評価する。さらに、SiO2やAl2O3による追加パシベーションの効果を調査する。 3.真の量子ドット(厚さ3nm、直径3nmのInGaN極限ナノ構造)を目指して、電子ビーム描画条件を精査し、直径30nmのSiO2マスクの形成条件を確立する。また、HEATE法で作製したナノ構造に対し、初年度に開発したデジタルエッチング法を用いて直径30nm以下のサイズ制御を試みる。数μmから10nmまでサイズの大きく異なるInGaNナノ構造の発光特性を系統的に評価し、ナノ構造効果の理解を進める。 4.ナノデバイスの検証に向け、電極形成や素子分離等のデバイス作製プロセスの開発に着手する。ナノデバイス作製に要求されるパシベーションや埋込、頭出し、低抵抗電極形成などの条件を順次確立する。 5.次世代光デバイス基盤技術開発への展開として、HEATE法による窒化物ナノ構造と有機半導体の融合技術を検討する。初期段階として、GaN上への有機半導体単結晶形成技術を開発する。
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