研究課題/領域番号 |
17H02749
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
森 孝雄 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, MANA主任研究者 (90354430)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 熱電材料 / ナノ構造制御 / コンポジット |
研究実績の概要 |
本研究では、熱電材料の実用化を阻んできた2つのパラドックスに対して、独自の切り口と材料で突破口を開き、熱電発電の初めての広範囲実用化につなげる高性能化原理を示すことを目的にする。具体的には、高電気伝導・低熱伝導の要求に対して、発見した熱安定で効果的な空孔生成法による高性能化(nanotech2016大賞プロジェクト賞受賞)を他の熱電材料に活用し、高性能実用化材料を開発する。一方で、高ゼーベック係数・高電気伝導の要求に対して、発見したナノコンポジットにおける複合効果の解明と一般材料への活用を行い、原理として発展させる。ナノ構造に起因する両原理を発展させて、熱電高性能化の普遍的な手法を見出すことを目的としている。 本年度の実績としては、ナノ・ミクロ多孔構造制御による100%の熱電性能向上の機構として、空孔サイズとその分散が重要であることを明らかにし、対となるp型材料などを創製して、他材料への適用を行った。その結果、p型材料および新規な別系統高性能熱電材料として試みたSnTeにおいて、ナノミクロ多孔創製によって、熱伝導率の大幅な低減が得られた。電気伝導との選択性に関しては、SnTeにおいて、フォノンの選択散乱が成功して、性能指数ZTの20%の増強が早くも得られた。 一方で、酸化物において、ナノコンポジット化によって、従来電気が通らない熱電性能が測れないくらい低い材料において、大幅な性能増強が得られた。現在機構の詳細な解明が進捗している。希土類ホウ化物系SmB66に対しても、単結晶育成に比べて簡便な合成法を確立して、コンポジット化の実験を開始し、まだ通常のドーピングに留まるが性能向上が得られた。 本研究の成果は、学会(国内学会と国際会議)で複数の発表が行われて、論文1編出版発表済、現在論文2編執筆が進んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の進捗状況は概ね良好に進んでいると考えられる。その理由として、ナノ・ミクロ多孔構造制御による熱電性能向上の機構の解明が進んでいる点がまず挙げられる(論文発表済、ハイインパクトのジャーナルSmall誌)。また、大きな目標としている、他材料へのナノ・ミクロ多孔構造制御による熱電性能向上原理の活用に関しても、熱伝導率の大幅な低減が得られただけでなく、高性能な熱電材料であるSnTe系材料においてはフォノンの選択散乱が成功して、性能指数ZTの20%の増強が早くも得られたのも順調な進捗である。 一方で、ナノコンポジット効果に関しても、研究の狙いに合致して熱電性能の増強が得られ、進捗は良いと考えられる。具体的には、従来電気が通らない熱電性能が測れないくらい低い酸化物材料MgTi2O5において、TiN添加により、大幅な熱電性能増強が得られた。最適な10%ドープにおいては、電気伝導率は1万倍向上し、ゼーベック係数が3分の1弱に低減したとはいえ、約200 ミクロV/Kという大きな値を維持している。現在機構の詳細な解明が進捗している。希土類ホウ化物系で最近見出された有望な系として、Y相やEr相に比べて40倍の熱電性能増強を発現したSmB66に対しても、コンポジット化の実験を開始したが、単結晶育成に比べて簡便な合成法を確立して、コンポジット試料の合成はまだであるがまずはじめに通常のドーピングによる高性能化が得られており、順調である。 国内、国際会議共に筆頭の研究発表を行っており、これに関わる論文執筆も進んでおり、上記の論文出版と合わせて順調であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ナノ・ミクロ多孔構造制御による熱電性能向上に関して、p型のカゴ状スクッテルダイトに関しては、電気的な熱電パワーファクター(ゼーベック係数二乗と電気伝導率の積)は高い値を取るドープ試料の合成に成功しているが、現在までに創製できた多孔構造に対しては、熱伝導率の大幅な低減が電気伝導率の低減にほぼ打ち消されている。多孔のサイズが、フォノンの選択散乱に適当でなく、今後は、合成条件をよりチューニングして、有効な、ナノ・ミクロ多孔構造の制御を進めて、熱電高性能化研究を進捗させる。また、希土類原子とのラトリング現象との相乗効果を調べるために、RECoSb3系材料へのナノミクロ空孔生成のプロセスを見出して創製して、熱電的性質を評価して、ナノミクロ構造と熱電物性の相関を解明しながら、高性能化への道筋を明らかにする。 一方で、ナノコンポジットにおける複合効果の解明と熱電パワーファクター高性能化の道筋の開発に関しては、前年度は、酸化物/TiNコンポジットで大幅高性能化が得られたが、機構解明を進める。また、SmB66に対して、前年度は、合成法を改良して、電気伝導とゼーベック効果の通常のトレードオフを凌駕するために有効な、材料内の部分的な金属ネットワークの形成・コンポジット化を調べた結果、TiB2ドーピングなどがコンポジットを形成せずに、結晶構造内にTiがドープされ、しかし結果的に熱電性能の増強につながったという成果を得た。今年度は、増強をより詳細に解明、発達させるとともに、結晶構造内に入らずにコンポジットを形成するドーパントを調べて、創製、物性開発を進める。
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