研究課題/領域番号 |
17H02755
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
山口 明啓 兵庫県立大学, 高度産業科学技術研究所, 准教授 (70423035)
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研究分担者 |
山田 啓介 岐阜大学, 工学部, 助教 (50721792)
内海 裕一 兵庫県立大学, 高度産業科学技術研究所, 教授 (80326298)
中尾 愛子 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (60342820)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ナノ・マイクロシステム / 分子イメージング / 分子センシング / X線 / 人工磁性体 / 界面・表面 |
研究実績の概要 |
統合ナノマイクロシステムに必要なマイクロ流体デバイスの設計および構築に関する要素技術開発や科学的な基礎研究を行った。今年度は、分子センシングを行う機能性ナノ粒子のナノ・マイクロシステム内での分散・凝集について、電圧印可を行うことで能動的に行える機構の究明と展開を行った。表面増強ラマン散乱のスペクトル強度が電圧印可の有無によって変化することを確認した。交流電圧による電気浸透流による粒子凝集が表面増強ラマン散乱の強度増大に寄与し、ブラウン運動による粒子拡散によって表面増強ラマン散乱の強度減少が起きることを明らかにした。この手法を用いれば、統合ナノマイクロシステム内で所望の位置に分子センシング機能性を有するナノ粒子を凝集させて分子イメージングを行ったり、リアルタイムでの反応過程をモニターできることが期待できる。また、表面増強ラマン散乱を用いた環境分析や食品安全のための分析チップの創製と実証実験にも成功した。 さらに、微小磁性体を用いたナノ・マイクロ磁気イメージング系を構築するために、局所的な磁気共鳴を励起する素子の開発も進めている。今回は、強誘電体/強磁性体界面によって発現する人工磁性体中の縞状磁区構造の強磁性共鳴現象の測定に成功し、その物理機構の究明と応用研究への展開を行った。強誘電体/強磁性体界面で磁気異方性が発現する機構についても光電子分光や放射光分析などを用いて解析を進めることができた。加えて、固体・固体界面だけではなく、気液および固液界面の形成による電子状態の変調が誘起する様々な現象に関する研究を進め、統合ナノマイクロシステム内での生体反応や化学反応機構に関する基礎的な知見を取得している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
統合ナノ・マイクロシステムの創製に必要な要素技術の研究開発を研究計画に基づき進めている。以下、それぞれの研究開発項目について、概要を述べる。 [1] 流体プラットフォーム創製においては、PTFEチップやその他の構造材で形成するチップの創製に成功している。現在は、さらに高機能性を付与するために、ポンプ機能および粉体輸送機能等を実現するチップの作製を行っている。圧電体基板上に各要素を構成し、全体としてのシステムを構築して、実証実験を行う準備を整えている。 [2] 伝達信号等の検出基盤の創製として、分子センシングおよび分子イメージングを行うためのシステムならびにナノ粒子構造体の創製を行っている。システムでは、高次ナノ構造体をLab-on-a-chipの一部を抽出した仕組みを創製して、簡易ラマン分光器で超高感度・迅速分子検出ができることを示した。分子イメージングでは、作製したナノ粒子構造体を生体材料に導入して、その分子イメージングを撮影できることが分かった。ナノ粒子構造体の最適化などを現在進めている。さらに、本年度の概要で記述したように、表面増強ラマン散乱活性を有する機能性ナノ粒子の分散・凝集を電圧印可によって制御できることを示した。その動作原理についても明らかにすることに成功した。 [3] 局所磁気イメージングを行うための磁気共鳴素子として強誘電体/強磁性体ヘテロ接合素子を創製し、その磁気共鳴測定を行っている。 [4] 生体内での反応やナノ空間における反応では、界面・表面における物理・化学現象の理解が必要不可欠である。特にナノマイクロシステムでは、その反応が顕著に起きる。そのため、ヘテロ固体接合系、気液、固液界面での電子状態変調構造などに関する研究開発も進めており、ヘテロ固体接合系に関する強磁性体/強誘電体接合界面では、磁気弾性効果などを介して磁気異方性が誘発される機構を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究開発計画に大きな変更点は現在のところ認められない。したがって、現在の研究開発計画に基づき、研究を行う。[1] ナノ・マイクロシステムのための流体プラットフォームでは、加工精度を向上させて、流路形成を行う予定である。設計した流体プラットフォームに電極形成を行い、単位化学操作と合わせて電気的な応答特性も取得できるシステム構築を引き続き行う。特にPTFEを構成材料とするナノ・マイクロシステムでは電極のPTFEへの接合・実装が課題になる。現在のところ、ある程度は接合できることが分かっているので、その範囲内での電極形成とデバイスの機能確認は可能である。したがって、プラットフォームを創製して、実際に稼働させてみるという実験とさらに精度よく電極形成などを行う技術開発を同時に進めていくことで、最終的に加工精度が高く、様々な機能性を有するプラットフォーム創製が実現できるように進めていく。さらに、圧電体基板との組み合わせによるポンプ機能や粉体輸送機能の実装についても進めていく。 [2] 伝達信号等の検出基盤の創製においても、[1]と同様である。特に分子センサーおよび分子イメージングを担うナノ粒子構造体の非特異吸着をさけるための表面改質や表面構造の制御機構の研究開発が重要であると考えられる。今後は、この表面構造の制御機構に注力して研究を推進する。磁気イメージング素子では、現在、異種材料ヘテロ接合によって発現する磁気異方性による磁区構造あるいは磁化反転機構の制御に注力しているが、感度向上や統合ナノ・マイクロシステムへの組み込みなども考慮した素子の研究開発フェーズに移行していきたいと考えている。 統合ナノ・マイクロシステムを試作しながら、基本操作系の構築と確認を行い、細胞や生体材料を搭載した系での実験を進めていく方針である。
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