本研究の目的は従来になく長時間安定して測定可能な赤外分光顕微鏡を実現し、生きたままの細胞の代謝、光合成反応、金属膜の水熱反応等のその場観察を実現することである。 2017年度はリニアアレイ検出器を搭載した顕微赤外分光顕微鏡を導入し、これに長時間冷却可能な液体窒素デュワーを装着した。温度擾乱を避けるために装置全体をアクリル板で覆い、装置の安定性について評価を行った。デュワーに液体窒素注入後から数日にわたり計測できることが可能となり、測定が特に安定して実現できる時間範囲を捉えることができた。 さらに新たに参照光と試料透過光をリニアアレイにより同時に計測可能なマイクロ流路を導入したマイクロ・リアクタを新たに設計・製作した。これにより、赤外線光源、光路長、検出器感度等のドリフトに対して安定した計測を実現できることが分かった。 2018年度はマイクロリアクタのパターンを塩化ビニール製のスペーサーに代えて、新たに紫外線硬化型シリコン樹脂を用いるフォトリソグラフィプロセスを確立した。これにより光路長を50μmから10μm程度と短くすることが可能となり水溶液中のその場観察をさらに容易にすることができた。加えて赤色・青色LEDを組み入れた分光セルも開発した。また本研究費により観測対象試料の指紋領域に高感度な検出器を装着した。 2019年度には前年度に導入したLEDシステムが波長選択に関して、必ずしも十分な限定的光照射ができないことが分かったため、ランプ連続光にフィルターを組み合わせ、光ファイバーにて赤外分光試料チャンバーに導入する機構を製作・装着を行った。 これらの準備の下に引き続き、水熱反応機構解明の一環としての有機酸アルミニウムイオン錯体、ATP水溶液のpH変化、細胞の捕獲と安定的分光計測について実験を行った。
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